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22.トラブルデート⑤

★ ★ ★


「鏡は?」


「加賀美ね。絶対わざとでしょ。……もう帰りました」



 迎えに行ってから初めて声を掛ける。


 そういえば車で移動してるって言ってたからそれなりの距離と時間は覚悟して迎えに行ったんだけど、眼鏡女子が1人で待っていたコンビニまでは意外に近かった。


 どういう風に言ってあの俳優の車から降りたのか気になったけど、眼鏡女子からは「もう帰りました」以降、口を閉ざしたまま何も言ってこない。


 それってつまりこっちからは何も聞かない方がいいってことだよな?と、勝手に解釈して加賀美さんの話しはしないことにした。



「すみれさん、大丈夫かな?」


「さあ……」


 眼鏡女子の独り言みたいな呟きに、こちらも独り言のような返事で応答する。


 好きであの俳優と出て行った訳じゃないって確信したから命令したくせに、いざ迎えに行くってなったらかなり強引だったしちょっと怒ってるかも……とか色々考えてしまった。


 しかし結果、横顔を覗く限りいつもと変わらない様子だし、ま、なんて言って別れたのかは知らないけど、これからの仕事に影響がないんなら別にいいかなって思う。


 たぶんこいつなりに成りきったってことだろう、奴隷に。



「すみれさん、先輩のお母さんと何話してるんだろ?」


「そういえば店出るときスカウトがどうとか言ってたな。あんまりいい予感しないけど」


「あの人、嘘とか演技とか全然できないですよ? 早く戻ってあげないとパニックになって変なこと言っちゃうかもね」


 それはマジに困るやつだわ。

 よし走れ、秒で帰るぞ。



「ちょっと先輩! いきなり走らないでよ!」



 俺たちは店までの距離およそ15分くらいの道のりを冗談交じりに突っ走る。言い合いはしょっちゅうだけど、なんかこいつと初めて笑い合った気がする、そんな15分間だったーー



 

ーー…ーー




「あとはー度事務所の方にきていただいてですね……」


「ええ、是非お伺いさせてもらいます! ああ……あの子が芸能事務所の方からスカウトを受けるなんて! まだ信じられません!」



 相当パニックなんだろう、かなり変なことになってたわ。


 適当に誤魔化してくれればよかったのに、なんで事務所に行くみたいな話にまで発展してんのか普通に謎なんだけど。


「あっ! お、おかえりなさい!」


 やっと帰ってきた!と高月さん、このカオスな状況から抜け出せる喜びにうち震えているのか、半分涙目になってる。


「まさか俺たちが帰ってくるまでずっと話してたの?」


「隼人、失礼ですよ。スカウトの方をこんなにお待たせするなんて。あなたたちどこまで行ってたの?」


「下で電話してたんだって。な?」


「すみません、長引いてしまって……」


「いいよ謝んなくて。それよりもチーフ、ちょっと私語多すぎじゃないの?」


「そ、そうね。失礼致しました。では高月さん、また後ほど」


 カオスの元は排除した。


 またどうせすぐ注文を承りに戻ってくるだろうけど、高月さんをVIP席に戻す時間くらいはあるだろう。いや、むしろ時間がなくてもこれだけは釘を刺しておかないと駄目だ。


 事務所? 絶対行かない。


「俺、行きませんよ? 事務所なんて」


「わかってるって。あとで適当にお母さんに言っといてくれればいいから。……あ、でももう名刺渡しちゃってるんだよね」


「またそんな余計なこと……」


「だって2人とも全然帰ってこないじゃん。こうなったのは三谷くんにも責任あるんだからね?」


「なんで俺のせいなんですか」


「うちのYUIを奴隷にした罰!」


 この人、眼鏡女子から事情とか経緯とか聞いてるんじゃなかったのかよ。奴隷でいいって言ったのこいつなんだけど?


「ねえすみれさん、このあとどうするの?」


「一度監督さんたちに挨拶行ってから駐車場で待っててあげる。あたしがここに戻ってきたらややこしそうだし」


「うん……ごめんね」


「いいからいいから。ゆっくりしておいで」


 高月さんは優しさをにじませた笑顔で眼鏡女子にそう告げると、VIP席の方に急いで戻っていった。




ーー…ーー

 



 眼鏡女子は先ほど会食を、俺はブレイクタイムにサンドイッチとミルクティーを。ぶっちゃけ2人とも腹なんて全然空いていない。


 適当に飲み物を注文して、少量の肉をつついた。

 店のサービスをいいことに、頼んでもいないのに頻繁にオーダーを取りにくる母親の鬱陶しさと、YUIのことを駐車場でずっと待っている高月さんのことが重なり、俺たちはどちらから言う訳でもなく早々に席を立つことにした。



「今日は色々とありがとうございました」


 駐車場で丁寧に頭を下げる眼鏡女子。

 あんだけ頑固でわがままなのに最後だけ礼儀正しいってなんかズルくない?


「三谷くん。YUIのこと、絶対周りに言うなよ~?(VIP席でお母さんに見つからないよう隠してあげたとき、おっぱい押し当てられて興奮してたの黙っててあげるからさ!)」


「はあ!? な、なに言ってんの! 別に興奮なんかしてないから!」


「興奮? 先輩こそなに言ってんの?」


「な、なんでもねえって!」


 高月さん(このひと)、マジで苦手なタイプだわ……。


 2人を見送って、駐車場で深々とため息をつく。

 バイトは途中で上がったはずなのに、なんか今日はえらく疲れた。


 綱渡りにもほどがある、トラブル続きの長い1日だった……。 

【お知らせ】

いつも読んでくれている読者の皆様、本当にありがとうございます。こちら都合で申し訳ありませんが、本日投稿分より投稿頻度を下げることにしました。これからは週に数回載せられたらなと思っています。


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