21.トラブルデート(すみれ編)
YUIのマネージャー目線です
◇ ◇ ◇
あたしの名前は高月すみれ。28歳、Gカップ。
自分でいうのもなんだけど、結構スタイルはいいほうだと思ってる。
顔は……あまり期待しないでくれ。
若い頃はあたしも芸能界に憧れていて、唯一他人に自慢できるおっぱいを武器にいくつものオーディションを受けていた黒歴史がある。
だけど当時は全然受からなくて、芸能界っておっぱいだけじゃ無理なんだなあって思い知らされた。
年齢もそろそろ20歳に差しかかろうとしてたし、もうこれで最後にしよう……そう思って受けた区切りのオーディションーー
あたしは、とあるディレクターと出会った。
「君さ、せっかく受けるんだったら女優じゃなくてグラビアやったら?」
何気に衝撃的だったよね。
芸能界ならなんでもいいやって思ってたから、オーディションの内容なんて関係なく片っ端から受けまくってたからさ。
「自分でも書いてるじゃない。特徴"張りのあるおっぱい"って。ここ、女優を目指す娘のオーディションだよ?」
失礼な。
この顔じゃ無理だとでも言いたいのかこの髭め。って、あたしのことだからたぶん顔に出てたよね。
でもそこで知り合ったディレクターさんがめっちゃいい人で、その人の話しを聞いていく内に、自分も出る側じゃなくて誰かを支える側の仕事がしたいって思うようになった。
現在のプロダクションに入社したのはそのディレクターさんの紹介があってのことだ。
初めの頃は先輩社員にも付き添いのタレントさんにも怒られまくり。自分は支える側じゃなくて育てられる側ってことをこれでもかってくらい痛感させられた。
だけどそこから次第に認められるようになって、新人タレントや俳優の卵も任せられるようになった。
この子たちの知名度を上げるためならなんでもした。この子たちを売り込むことがあたしの使命だと本気で思ってたから。
枕営業?
そんなの、この子たちにさせるわけがない。
あたしのおっぱいでよかったらいくらでも使ってくれって感じだけど、こんな素人のおっぱいで釣れるほど芸能界の仕事は甘くない。
そして何人かの新人くんたちを売り込むことに成功したあと、この仕事について初めて自分でスカウトしたのが『YUI』だ。
スタイルは……あたしには遠く及ばなかったけど、整った顔立ちや醸し出す雰囲気、まだ幼かった14歳の中学生に覚えた衝撃は今でも忘れられない。
内気で、でも愛想はよくて、自分に自信がないっていう割りにはいざって時に根性を見せつけてくれる、そんな娘。
YUIの知名度が上がるのは目に見えてた。
こっちが怖くなるくらい、トントン拍子に女優道を駆け上がっていく。気がつけば、デビューからたったの2年でドラマの主演を張るくらいにまで成長してた。
だけどある日、人気や知名度が上がるにつれて学校での盛り上がりが異常になっていく悩みをYUIから打ち明けられた。
もともと人に気を遣う性格だったことも重なり、当時は相当辛そうだったけど、高校進学とともに"自分隠し"を徹底したらしく、今ではすっかり元通り。
YUIの気も知らないで売り込むことばかりに躍起になってたことは猛反省したけどね。
そんな矢先のことだった。
YUIから"高校の先輩の奴隷になった"と聞いたのは。
YUIのリアクション次第じゃ本気で潰してやろうか、それともまだギリギリ張りのあるこのおっぱいで眠らせてやろうか、真剣に考えた。
でも話を聞いていくと、大した主従関係ってほどでもなさそうだったし、一番は先輩くんが周りに言いふらすような子じゃなかったから、別にそこまで首を突っ込まなくてもいいかなって。
だけどこの娘が私生活と芸能活動にメリハリをつけたいと願っている以上、あたしだってそのためならなんだってする覚悟はある。YUIの正体は、この娘のマネージャーであるあたしにも守る義務があるんだから。
「ーー高月さん? どうかなさいましたか?」
「い、いえ! なんでもありません!」
なんだってする覚悟はある。本当に。
あるんだよ? あるんだけどさ……
一体なんなの、この状況は!?
どうしてあたし、先輩くんのお母さんに絡まれることになったの!? あたしが余計なこと言ったから!?
"この子の清楚な顔立ちと雰囲気に引かれてご挨拶を……"
いや、言ったけどさ!
でもそういうしかなかったじゃん!
2人が付き合ってること、今からその2人が食事ってことをお母さんが知ってる以上、こっちから正体をバラす訳にもいかないし、連れて行かれたって知られる訳にもいかないじゃん!
あたしが勝手にあの娘の姉ですって嘘つく訳にもいかないし、他にあたしが先輩くんと2人で3番テーブルにいる理由が思いつかなかったの!
YUIは事務所の稼ぎ頭になる女優なんだ!
何があってもあの娘には頑張ってもらわなきゃいけないの!
こんなことで……!
こんなことであの娘を落胆させる訳にはいかないんだから!
あたしは誤魔化しながらも腹を決める。
例え本当に一般男子の先輩くんをスカウトすることになったとしても、あの2人が帰ってくるまでは粘ってみせるとーー
「そ、素質は十分だと思うんです。あとは一度事務所の方にきていただいてですね……」
「ええ、是非お伺いさせてもらいます! ああ……あの子が芸能事務所の方からスカウトを受けるなんて! まだ信じられません!」
そのまま信じなくていいですよお母さん。
本当に申し訳ないですけど、嘘なんで……。
次話で本編と繋がります




