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17.トラブルデート①

★ ★ ★


 有無を言わさせない母親の鋭いオーラには逆らえず、俺はテンパりながらも急いで着替えるハメに。その間に眼鏡女子は母親に連れられるがまま、先に3番テーブルへとお通しされた。


 まずい……これは非常事態だ……。

 なんでこうなったのかを考える前に、ひとまずこの状況を打開する策を考えないと……!


 あ、そうだ!

 担当が恭太郎さんだったらまだなんとかなるかも知れない!


 まだ頭の整理は全然できていなかったけど、他力本願という一縷の望みを抱きながら3番テーブルへと急行する。







「焼肉"樂"へようこそおいで下さいました。本日、お客様のテーブルを担当させていただきます三谷と申します。宜しくお願い致します」


 ……母親(あんた)かよ!

 なんでこの人、自ら担当買って出てるんだ。

 っていうかVIP席の担当はどうした。自分の仕事を放棄してまで息子の偽リア充っぷりを見たいか。



「……。お客様、少々お待ち下さいませ」


 突然、チーフはメニューを持ってテーブルから離れた。スタッフである俺からすればたぶんインカムで他のスタッフに呼ばれたんだろなって想像はつくけどーー


「ね、急にどこ行ったんだろ?」


 ま、眼鏡女子(こいつ)からすればそうなるわな。


「どうせ誰かに呼ばれたんだろ。すぐ戻ってくるって。……っていうかさ!」


 そうだ。そんなことよりもだ。


「なんでお前がここにいるんだよ!」


「そんなのこっちが聞きたいですよ! 先輩こそなんでここにいるのよ!」


「俺のバイト先ここなんだって!」


「そんなの今さら言われたってもう遅いですよ! どうするんですかこの状況!」


「どうするって……。つうかその前にさ! なんで眼鏡掛けてんの!? 母さんとは昨日会ったばっかなんだから気づかれるに決まってるだろ!」


「先輩のお母さんが働いてるって知ってたら掛けてなかったです!」


「なんで知らないんだよ! 入店したときVIP席で会ってるだろ!?」


「あの部屋、何人いると思ってるんですか! 注文だってスタッフさんがしてくれたから店員さんの顔なんて見てなかったの!」



「くそ……帰りに言ってた食事会ってここかよ!」

「もう……先輩とかお母さんが働いてるんなら!」



「「 そういうことは先に言っとけよな!

   そういうことは先に言っといてよ! 」」



「先に言っといてよってなんだよ! お前がここにくるって知らなかったんだから言いようもねえだろうよ!」


「食事会がここのお店って知らなかったんだからしょうがないでしょ! それに先輩こそ! 先に言っとけよなとか偉そうに言うけど、帰り話してた内容なんてほとんど聞いてなかったじゃないですか!」




「ーーお待たせ致しました」


 チ、チーフ……!?

 いつの間に戻ってきたんだ!?

 ヤバい……もしかして今の会話聞かれた!?


 いや……。

 俺たちの固まった顔を見てキョトンとしている。

 それどころか、2人の会話に割り込んでしまった気まずささえ感じる。


 まだ誤魔化はきく!


「こ、ここの店すげえ旨いから!ほんと!マジで!」

「ね! すごい美味しかっ……オホン!美味しそう!」


「お客様、どうかなさいましたか?」


「べ、別に!」



 危ねえ……!

 早くなんとかしないと!


「あっ、メニュー! ごめんなさい私ったら。すみませんお客様……。(ねえ隼人、悪いんだけどメニュー取ってきてもらえないかしら?)」


 きた、これだ……!


「ここの従業員の方はお客にメニューを取りに行かせるんですか? それとチーフ、喋り方も気をつけて下さい」


「し、失礼致しました……。すぐにお持ち致します」


 アルバイトで入社して以来、初めてここのお堅い秩序に助けられたな。普通のバイトだったら親子なんだしこんなに割り切れるもんじゃないだろう。


「先輩、役者になれるんじゃない? 今度私と共演します?」


 眼鏡女子は微笑を交えて言う。

 さっきまで言い合いしてたくせに。


「なれるわけないだろ。くだらないこと言ってないで今の内だ。一回戻った方がいいって」


「え?」


「だって向こうには何も言ってないんだろ? YUIとして食事会に参加してるのに、こんなとこで一般人(おれ)と飯食ってるの見られたらアウトじゃん」


「で、でも先輩は? お母さん、すぐに戻ってくるでしょ?」


「適当に濁しとく。ただあの人、結構鋭いししつこいからな……ヤバくなったらヘルプ頼むわ」


「頼むわって……!」


「いいから行けって。ほら! 戻ってきた!」


 半ば強引に眼鏡女子を席から立たせた。迷ってる暇なんかない。


 眼鏡女子はこちらにメニューを持って近づいてくる母親とは反対の方向へ、まるで逃げるように早足にVIP席へと戻っていった。


 心配そうに2回ほど、こちらを振り返りながら。

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