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14.偶然が招くハプニング①

★ ★ ★


「三谷、出勤しました。おはようございます」



 バイト先の店舗へ到着後、いつものように社員たちへあいさつをし、更衣室で素早く制服に着替えてタイムカードを押す。


 以前、触り程度に話したことのある俺の勤め先の焼肉店だが、ここで少しだけ説明おこう。



『高級焼肉店"樂"』



 俺の家みたいに庶民的な家庭だったら、おそらくあまり来店する機会もないんじゃないかと思われるぼとの超がつく高級焼肉店。


 基本的にアルバイトよりも正社員が従業員の大多数を占め、厨房、特に肉場に関しては、会社独自の研修プログラムの一つである『和牛免許』を取得していなければ持ち場に入ることすらできないような店舗。


 お客様の空間であるホール。

 色とりどりの食材を豪華に飾る厨房。

 そのホールと厨房を繋ぐデシャップ。


 もともと俺は、デシャップという料理や飲み物を運んだりする持ち場のスタッフとして雇われていた身であるが、最近ちょくちょくホールにも出されるようになっていた。


 因みに高校生のアルバイトは俺1人。

 高校生の……っていうか、アルバイトは高校生どころか大学生でさえ1人もいない。現在時給制で勤務しているのは、将来的に社員を希望している有望な20代のフリーター4人のみ。


 え? 

 なんでそんな超高級焼肉店に俺みたいな高校生がアルバイトしてるかって? だよな、よく雇ってくれたなって思うだろ?


 全部親のコネ。

 いや、コネの字が違う。


 正しくは親の強制(コネ)……。




ーー…ーー




 PM17:00ーー



「三谷さん、6番テーブルにご新規二名様です。お願い致します」


 オープンして間もないホールへ出ると、早速ホール責任者であるヘッドチーフから指示を貰い受ける。


 因みにヘッドチーフは店のナンバー2。厨房責任者の副店長がヘッドチーフの下につき、最高責任者兼店舗管理者が店のナンバー1である店長という組織図。


 ところで俺の強制(コネ)の話しなんだけど、いくら母親が勤めている店舗とは言っても普通の平社員程度の権力じゃまず無理な話し。仕事をこなすこなせないではなく、気に食わないが高校生なんて言葉遣いすらままならない幼稚な存在という社会のーーいや、この会社の解釈なんだろう。


 従業員同士のタメ口厳禁、ホール内どころか休憩室以外の店舗内では全てが敬語という徹底ぶり。お客さんではなくお客様、年齢差を問わず従業員を呼ぶときは全て「さん」付け。返事は「わかりました」ではなく「かしこまりました」


 こんな規則がまだまだ数え切れないほど山のようにあるーー


 はっきり言って、学校なんかよりもよっぽど息が詰まりそうになる場所。誰が好き好んでこんな規則縛りのバイトなんてしたいと思うんだ?

 もちろん俺だって例外じゃない。小遣い稼ぎくらいしたら?と、半ば強制で雇われる経緯がなければ1ヶ月ももたなかったと思う。


 そう、母親の強制(コネ)……俺の母親は普通の社員ではない。

 あまり言いたくない事実なんだが、実は俺の母親ってのはーー



「三谷さん、次は13番様、網の交換をお願い致します」



 またしても指示を貰い受ける。

 『HS&HC(ホールスタッフ&ヘッドチーフ)』

 名札の上の責任者マークが目に突き刺さる。


「……かしこまりました」

 


 名札には『三谷京香(みたにきょうか)』俺のーー母親である。




ーー…ーー




 PM18:30ーー

 休憩時間(ブレイクタイム)



「なあ隼人、今日のVIP席のお客様、誰だか知ってるか?」


「え?」


 休憩室でミルクティーを飲みながら買ってきたサンドイッチを片手に寛いでいると、普段から俺のことを可愛がってくれている社員の泉恭太郎(いずみきょうたろう)さんが入ってくるなりいきなり声を掛けてきた。


 たまたまブレイクタイムが被ったのか、まあ彼の詳しい紹介はまたの機会にするとして、俺は恭太郎さんのもったいぶった言動に興味をそそられた。


「確か19時からのご予約様ですよね? 恭太郎さんご存知なんですか?」


「……かなりの大物らしいぜ」


 興味あるだろ?と、キメ込んでいる。

 ニヤけた笑みがとても気持ち悪いです……。


 この店でスタッフが大物と呼ぶのは、いつも決まって芸能関係者かスポーツ選手、もしくは政治関連の団体様。たまに店長の紹介客やお知り合いさんが利用することもあるが、VIP席にお通しすることはかなり珍しい。


 でも、俺は敢えて恭太郎さんのキメ顔をスルーする。理由は簡単ーー


「大物って言っても、VIP席の対応は全て役職者がやりますから。僕らが関わることはないですよ」


 VIP席には直接地下駐車場に繋がる専用の出入口がある。……そう、結局どんな大物が来てもいつも顔すら拝めずそのままお帰りされるのだ。だからいつも休憩室で盛り上がるだけ盛り上がるくせに、結局最後まで誰がきたのかわからないってのが高級店のテンプレ。


「違うんだって! 今回はさあーー」


「あ、時間なんで行ってきます」


 高級店なんだから芸能人や野球選手なんてしょっちゅう来店される。でも会えないんじゃなんの意味もない。


 俺はまだ何か言いたげな恭太郎さんを残してブレイクタイム終了のインカムを飛ばし、一礼をしてからホールへと戻った。

【お知らせ】

本日中にあと1話投稿します。

今回の14話を途中で二分割したためです。


いつも誤字脱字のご報告、ブクマやご評判ありがとうございます。

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