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13.ふたりきりの帰り道

★ ★ ★


 事の真相は放課後に判明したーー




「俺、なんもしてないんだけど……」


 なんの誤解か、眼鏡女子はかなり不機嫌そうにも関わらず「じゃ、放課後正門で待ってますから!」と、まだ整わない息に構うことなく俺の前から立ち去った。



「あいつ……怒ってんのに待ってるってどういうことだよ」


 意味もわからず理解もできない。ただただ取り残された感だけに包まれるも、とりあえず引き返して目的地である売店へと向かう。


 そして放課後ーー


 モヤモヤした状態で午後の授業を受けたのち、待ってますからと吐き捨てられた正門へと足を運んだ。



ーー…ーー



「遅いっ!」


 下校時刻になって、それなりに急いでここまでやってきた決して遅くはない俺に対し、眼鏡女子は未だに不機嫌そうな様子を伺わせていた。


 いい加減マジでこっちも謎だったから、遅い遅くないはすっ飛ばして話を切り出してみる。

 そうしたら案の定っていうか、こっちが大方予想した通りの真相だったーー



「え? ほんとに?」


「ほんと。たぶん妹が勝手に連絡したんだ」


「私……てっきり先輩が妹さん使って命令したんだと思ってた」


「なんだよそれ。俺めちゃくちゃ非道じゃん」


「非道でしょ? 私のこと奴隷にしたんだから」


 それはお前がいいって言ったんだろ。

 結構根に持つタイプだな。


「ってかさ、なんで放課後正門で待ってるってなったんだ?」


「ーーこれ」


 眼鏡女子はスマホを取り出して俺の顔に近づける。……ん? 妹とのやりとりか?



<おはようございます! お兄ちゃんに聞いたんですけど今日ってドラマの撮影なんですよね? 学校はお昼から?


>昼から行く予定日だけどまだちょっとわかんない


<お疲れさまです! さっきお兄ちゃんから連絡があって、なんかお昼休みには学校に着くようにって言ってます! 急いで下さい!


<あと今日の放課後なんですけど、YUIさんと一緒に帰りたいって言ってました。命令だ!って言って強気でしたよ~!



 そしてスクロール。まだあんの?



<それから! もしよかったらまた家に来てほしいって! 

 


 怖いな、(ファン)って。

 使える(モノ)は嫌いな兄でも使えってか。


 これが赤の他人だったら無関係で済んだかも知れないが、何を隠そう兄を使ってYUIに嘘の命令をしていたのは実の妹。さすがにちょっとやりすぎな件に歯痒さと申し訳なさが混ざった複雑な感情が込み上げてくる。


「ごめん、帰ったら注意しとく」


「ん~普通に連絡してくれればいいからって伝えてて下さい」


「ああ……」


 頑固だけど、やっぱちょっといい奴なんだよな。




「先輩、実は……」


 ところで、童貞で非リア充の俺は今まで女子と2人で帰ったらことなんて一度もない。まさか初めて一緒に帰ることになった女子があの人気女優のYUIとは……。


「でね、今日はスタッフさんや共演者の方たちと食事会でーー」


 一度は勝手に俺を使って嘘の連絡を取っていた妹に腹を立てたが、あのYUIと一緒に下校できるキッカケを作ってくれたのは事実だ。L◯NEの真意は帰ってから聞くとして、ちょっとだけ感謝しなきゃな。


「でも、これ妹さんが勝手に言ったことだからナシですよね?」


 ただ改めて眼鏡女子の顔を見ると、やはりこの厚手のビン底眼鏡と大きなマスクはすごい変わりようだと思う。あまりに普段テレビで見るYUIと隣を歩く眼鏡女子の印象や雰囲気が違いすぎて、俺の中ではどうにも同一人物として入ってこない。


「あの……先輩?」


 解離してるんだ。別の人間みたいな感覚。だからこんなにも冷静でいられる。怖いくらい。


 だってあのYUIだぜ? 普通だったらーー


「ちょっと先輩! 聞いてます?」


 ん?

 そういえばさっきからずっと何か喋っているような……


「ごめん、もう一回」


「もう、聞いてなかったんですか! これからスタッフさんたちと食事会なんです! だから今日は先輩の家にはお邪魔できませんって言ったの!」


「それ妹が勝手に言ったことだろ?」


「それも言いました! だから命令はナシですよねって!」


「あぁ、ナシナシ。俺も今からバイトだから」


「はぁ……聞いてないし冷たいし。加賀美さんとは大違いですね」


「鏡さん?」


「発音!それ見るほうのでしょ! 加賀美真さん、知りません? すっごい有名な俳優さん」


「ああ、聞いたことあるわ。知らんけど」


「どっちよ!」


「つうかさ、昨日も思ったけど結構喋るよな。テレビで見るとYUIってもっと大人しいイメージあったけど」


「な、なにそれ! 余計なお世話なんだけど!」


「怒んなって。別に変な意味じゃないから。こっちもそんくらいの方が変に緊張せずに済むし」


「べ、別に……これが普通です!」



 うーん。

 眼鏡女子は歳でいうとくるみの一つ上。つまりは俺の一つ下ってことになるのだが、たぶん歳が近いせいだろうか、喋っているとなんとなく妹と接しているような感覚になる。


 まあそんな兄妹あるあるはさて置き、眼鏡女子と喋りながら歩いているとあっという間に駅へと到着した。


「じゃあ、私はこっちなんで」


「うん、おつかれ」


 どちらとも見送ることなくあっさりと解散。

 このあと、まさか()()()()()になるなんてこのときはまだ思いもよらず……。

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