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1.衝撃を伴う出会い①

★ ★ ★


 季節は6月中旬ーー


 ここのところ曇り空が目立つようになってきているが、幸いなことに梅雨にはまだ入っていない。

 ……なぜ幸いかって?

 毎日がジメジメとして、あの雨独特の匂いが好きじゃないから。農家の人には悪いけど。



< キーンコーンカーンコーン >

 


 そんなことを思いながら窓越しに外を眺めていると、いつの間にかHR終了のチャイムが鳴り響いた。


 同時に、俺は颯爽と席を立つ。

 さて、今日もバイトだ。


「そういやさーー」

「ああ、知ってる知ってる!」

「あの娘マジで可愛いよな~」


 HR終了と同時に、またしてもクラス中のあちらこちらでとあるドラマの話題がぽつぽつと広がりを見せる。いや、()()()()の話題が……。


 ドラマがあった翌日は、休み時間や昼食時を問わず朝からずっとその話題ばかりで賑わうのがクラス中の恒例となっているせいだろう、たぶん興味のないヤツでもそれなりの知識を得ている。


 かくいう俺も、クラスのダベりからある程度の知識を得ることになった1人だが、最近はドラマそっちのけでその出演女優の話題ばかりだからひたすらスルーすることにしている。


 この日も鞄を持って足早に教室後方の扉へと向かった。

 


「男子ってさ、どうせ内容みないで『YUI』ばっかみてんでしょ?」

「あたり前だろ、内容なんか興味ねえから。もうYUIだけ映しとけって感じ?」

「はあ? YUIだけ映したらドラマの意味ないじゃん」

「それな。お前アホだろ」

「いやいや、YUI1人で十分っしょ?」


 どの辺が十分なのかよくわからないが、大体こんな感じで男女問わずに賑わっている。




 国民的美少女の現役JKーー『YUI』


 皆が先ほどから口にしている彼女だが、おそらく高校生だったら知らないヤツはいないほどの人気女優。その可愛さと清純さとが相まって、同じ中高生から上は40~50代まで、幅広い年齢層から支持を得ている最近の大人気女優……らしい。知らんけど。



 あ、言い忘れたが俺の名前は三谷隼人(みたにはやと)、17歳。

 陰キャ街道をひた走る高校2年生で、趣味ややりたいことがないせいだろう、だったら小遣い稼ぎくらいしたら?と、なかば強引に母親の働く焼肉店でアルバイトをさせられている"青春置き去り系"男子。



「YUIっさ、どこの学校なんだろうな?」

「さぁ……まだ判ってないんだろ?」

「あんな娘うちの学校にもいたらな~」

「いるわけないじゃん。いたらソッコーでわかるから」


 ガラガラ……


 会話の流れを空気のような存在感で縫い、扉を閉める。


 そうそう。そんなもんいるわけーー


「痛てっ!」


 ドン、という衝撃と共に肩の辺りに痛みが走った。ちょうど教室を出てすぐ、階段の曲がり角を曲がろうとしたときだ。


「痛った~……」

 

 小柄な女子が尻もちをついている。


 スカートがめくれ上がった下半身のナイスアングルはさておき、眼鏡がその衝撃で床に転がり、小顔に似合わない大きなマスクが片耳から外れている。


「ごめん大丈夫?」


 女子の物であろうビン底眼鏡を拾いながら声をかける。


 幸い、割れてないからそこまでの衝撃ではなかったと思うが、女子はお尻を擦りながら痛そうに顔を歪めて……あれ、かなり可愛くないか?


「え!?」


「っ……!」


 女子は言葉にならない声をあげながら咄嗟に顔を背けるように隠した。


 俺はそれを追いかけるように回り込んでもう一度顔を確認する。


「え、えぇ!?」


 これがTVドラマだったら「ベタな展開だな」と鼻で笑うところだが、現実に起こったとなると話は別。一瞬、驚きすぎて声も出ない。


「ゆ、ゆ……、YU……!!」


 驚きをムリヤリ声にしようとした瞬間、女子はこちらを振り返り、キリっとした目線と表情を向けてきた。


「しーーっ!!」


 彼女の小さな右手が俺の口元を覆い隠す。


 上目遣い、至近距離、甘い香り。

 サラサラの髪に品のある顔立ち。

 ()()()()では何度か見たことがあるものの、直に見ると吸い込まれそうになる透明感半端ない麗しき瞳。


 嘘だろ……!?

 なんでこんなところに()()()()()()が……!



「誰にも言わないで……!」


 その瞳に釘付け状態の俺にそれだけを言い残し、ビン底眼鏡と大きなマスクを装着後、彼女は立ち上がってそそくさと階段を降りて行った。


 ん? なんか落ちてる?



「生徒手帳……」





ーー…ーー





「YUIちゃんてさ、マジで肌とかキレイすぎなんだけど」


 衝撃が走ったその日の夜、女優YUIのY◯uTubeを見ながら中3の妹がため息を漏らす。


「ああ……可愛いかった……」


 いつもなら、俺もお気入りチャンネル登録の動画を楽しむ時間なのだが、今日はちょっとわけあって放心状態。


「は? 可愛いかった?」

「ああ……」


 上の空のまま呟いた。

 妹に返答したつもりはない。


「なに、そのもう会いましたみたいな言い方、キモいけど」

「う、うるせえよ」


 キモいの単語でふと我に還った。

 誰がキモいだ。


 disる妹を適当にあしらい、自分の部屋に直行。

 手には生徒手帳。俺、もしかして関係者以外で初めて本名知ったんじゃないか?


井川(いがわ)奈央(なお)……か」


 これ返さなきゃだし、明日学校で探してみるか。

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