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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

行商エルフ(仮題)シリーズ

行商エルフ(仮題)5

作者: まい

今回は正義()に燃えるエルフさんです。

「お早うございます。今日も良い天気ですよ!」


「本日チェックアウトですね。有難うございました」


「『行商し……宰相』様からお褒め頂けて光栄でございます。シェフにも伝えますが、とても喜ぶと思います」


「…………はあ、出来るだけ早く店を畳んで、出国の用意。ですか?」


「商業ギルドには忠告済み……分かりました。貴女様が仰るのです、信じた方が良いのでしょう」


「ええ。当宿“ナツメヤシの木陰”をご利用頂き、ありがとうございました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」




 いきなり不穏な空気で失礼します。『行商神』や『行商宰相』と呼ばれる事が多い、500歳をあっさり越える時間を生きる、行商で生計を立てているエルフでございます。


 今回は宗教国家、その首都である聖都に呼ばれて来ています。


 街並みはパッと見でほとんど変わっていません。


 分かりやすい変化は、お店にかかっている看板とか、商品とか内装の飾り付けとか。


 細かい違いだと、建物や像等の建造物――聖都は石で造ったものばかりです――についた汚れとか、風雨で削れたとか位。



 ここはあまり良い記憶が有りませんで、来るのは大体100年ぶりですね。


 この世界の主神を信奉する、世界的な宗教の総本山。


 今はとあるイベントで大盛り上がり……のはずなのですが、外を出歩くヒトが少ないのです。


 大通りは法で露店が禁止されていまして、決められたスペースへ出店する事になっているので、余計に寂しさが強調されています。


 私はここで商売する気なんか有りませんが、露店を眺めるのは好きなので、時間いっぱい見て回りますかね。




 ここは生鮮食品の露店ですね。


 ……おっと?ちょっとちょっと。これマズいですって。ここまで熟すと毒性を持ち始めるから注意って、美味しいけど危険だと有名な野菜じゃないですか。【詳細解析】スキルでも毒性有りって出ちゃってるし。


 うわぁ……。この果物なんて、丁度こんな未熟な状態で……え~と。あっ、隣の露店のあの薬草。と錬金調合すると、強めの媚薬効果が出る危険物ですよ?


 ちゃんと【鑑定】とか使ってますか、この露店?


 わざと狙って置いているんじゃないでしょうね?


 お隣の露店と併せて、私へ悪意を向けているのは察知できますので、わざとかもしれないですね。

【詳細解析】で見えたお2人の名前を、後で商業ギルドへ通報しておきましょうか。



 と言うかですね、ここの露店用スペースは、ひとことで言って酷いですね。


 私のエルフイヤー(地獄耳)で拾える情報は、事実が絶妙にねじ曲げられて、いかにも情報操作・思考誘導を狙った会話が多いのですよ。


 商人からも、買い物客からも。この宗教国家はこうして求心力を得ている……そうひしひしと感じますね。




 時間になりましたので、呼ばれて向かうよう言われた大聖堂へ。

 そこで行われるのは、主神降臨100年祭。

 折角ですし、その100年前の出来事を回想しましょうか。


 ~~~


 この大聖堂で行われたのは、魔王討伐への壮行会。


 私は呼ばれていませんでしたが、その会に用がありましたので自身の肩書き『行商神』を利用して無理矢理参加しました。


 そこには様々な国のお偉いさん方がずらっと並び、一番奥には宗教の教皇を始めとした幹部達もずらりと揃った。


 そして目立つ壇上には、黒髪黒目のいかにも日本からの異世界転移者らしい若者が5人。



 会の進行は中々アッサリしたもので、教皇さんと国々の代表数名の挨拶と応援のお言葉で終了。


 最後に「さあ行け、勇者達よ!」と背中を押すだけの場面になり、そこで私は大声を出して進行を遮りました。



 遮ってプレゼン開始です。


 記憶の中にある音声や映像を空中に投影できる【投影魔法】にて、魔族たちと交流した時の様子を、会場の最奥に鎮座する主神様の像を隠すような大画面で投影してやりました。


 あのヒト達は大半が純朴で、争い事を嫌う方々も多かったのです。

 一部ケンカっぱやくて乱暴なヒト達もいましたが、それはどんな種族にも居るのですよ。


 最後に魔王さんとの世間話。あの方も戦争嫌い。姿の違いや能力の差程度で悪魔だの絶対悪だのと決めつけて、問答無用で戦争を仕掛けてくる他の種族こそ野蛮だ……と嘆いている様子も見せてやりました。


 〆に魔族も人類。戦争を仕掛けず、仲良くした方がお得だとまとめたのですが、教皇さんはオカンムリ。


 お前は魔族の尖兵だ!捕まえよ!とまで言い出したのですが、私はそれどころではありませんでした。


 私の投影魔法が圧倒的な何者かに、乗っ取られそうになっていたのです。


 死に物狂いで抵抗したのですが、努力も虚しく抵抗が破られました。



 乗っ取られた魔法の画面からは大聖堂の鐘の音が鳴り響き、会場の全てのヒトが発生源の画面へ注意が持っていかれ、その魔法で隠れてしまったはずの主神の像が大きく映し出されました。


 それは小さくなって行き、やがて幼児の形に落ち着きました。

 その幼児は、この世界で一般的な茶髪と紺色の瞳を持ち、性別の判断がつかない中性的な顔立ちで、真っ白で大人サイズの大きいローブを引き摺る格好をしていました。



「我なのじゃ!」



 主神様のこれまた中性的な第一声で場は騒然。勇者達の中で「のじゃロリキターーー!!」と叫び声も聞こえました。

 ……私の見立てでは、無性別だと思います。性別の要素が混在していて判別不能なので。


 しばらくして場が落ち着いた頃を見計らい、主神様が話しを続けます。


 曰く、魔族は主神が愛を込めて(つく)った人類の1種族。我を信仰しておきながら魔族の完全排除を企むなど、我を否定するがごとき所業は許せぬ。


 そう言い放ったのです。


 そうしたら宗教の偉いさん達が大反発。我が神は魔族の討滅を望んでおられる、貴様など神では無いわ!


 そうなんです、言っちゃったんですよ。しかもそれに同調する教皇さん以下の幹部さん達も。


 これはしばらくうるさいぞ~……なんて嫌な気分になったのですが、宗教家さん達は案外すぐに黙りましてね?

 なんで黙ったのか不思議に思ったのですが、連中の真っ青な顔と【詳細解析】で見えた称号欄で納得しました。


【主神への反逆者】この称号持ちは運のプラス補正スキル・アイテム効果完全無効と、運数値がマイナスのカンスト固定。

 本物の主神様に、直接ツバを吐いちゃったなんてお気の毒様です。



 それで場はグダグダになって終了。主神が魔族との戦争を求めていないって事で、各国が慌てて魔族への使者確保に奔走したり、召喚損になった勇者への対応とか色々大変な事になりました。


 ちなみに私はプレゼンした言い出しっぺだし、魔王ともパイプのあるヒトですので、メッセンジャーとして大いに使われました。


 ~~~


 あれから100年。魔族ともなんとか表面上は良くやれていて、戦争は起きずに済んでいます。


 そんな訳でして、主神が降臨したのは信徒の暴走に難色を示した為であり、こんなのを祝う方がおかしいのですが、画面越しとは言え降臨したのは事実ですからね。

 こうしてねじ曲げて、宗教に都合よく使っているのですよ。



 会場には100年前の光景と同じく、沢山の国のお偉いさん達と宗教家の幹部連中。それと参加者達のはしっこに私。


 私がする事も100年前とほぼ同じ。


 司会が式典の開催を宣言する所で、割り込んでやりました。


 ざわつく会場、イラつく宗教家の幹部達。


 私はそんな空気はさっさと無視して、あの時みたいに主神像の前で投影魔法を展開。



「今回の100年祭で、我等の天敵である『行商神』を排除する計画は実行可能か?」


「はっ、用意は万全でございます」


「100年前、奴に我等の先輩方は虚仮(こけ)にされたと記録にある。それと仇をとって欲しいとも」


「はい。主神の名を不正に利用し、我等を悪と断じた大悪党だとも書いてありましたね」


「うむ。なのでな、奴と繋がっている諸国も一緒に断罪し、許す代わりに我等への絶対なる忠誠を誓わせる計画である」


「存じております」


「それで、奴の罪は揃っているのか?」


「はい。尻尾は掴めませんでしたが、我等が捏造と判らぬ巧妙な罪を用意しました」


「そうか」


「しかも我等が行った、裏工作で隠した犯罪も一緒に押し付けて、問答無用の打ち首も狙える罪になっております」


「ふふふ。これで我等の身は潔白になり、奴を罪で(けが)(おとし)めて処断する。やはり私の計画は天才的ではないか」


「「ハハハハハハハ…………」」



 普通の投影魔法だと、ここまで鮮明に映らないのです。

 でも私は【絶対記憶】持ちですからね。ハッキリ投影可能です。


 私は【世界の語り部】と言う称号により、世界の記録(アカシックレコード)の閲覧権利を有していますからね。招待状をもらった際に、何を企んでいるのかはそれで知っていました。


 これは昨日の夜になされた会話です。連中の企みの証拠を手に入れるため夜にこっそり忍び込んで、その会話に立ち会ったのです。


 100年前の惨劇から何も学ばない馬鹿達を、もっとキツい目に遭わせてやる算段ですよ。


 もしこの様子が見られなかったらどうしたのか、ですか?

 保険で探した計画書、計画実行書や命令書を突きつけたり、100年前の回想を丸々投影してあげて、レコードに載った企みを読み上げて反応を見るつもりでした。



 ゲスい会話な投影魔法を見た、教皇達の感情的が大爆発。


 一部はうろたえ、困惑し、呆然とする者もいました。

 が、魔法で登場した2人はレベルが違ったのです。


 こんな物は証拠にならんデタラメだ!者共出会えー!そして切り捨てぃ!!


 まるで時代劇の追い詰められた悪役みたいな(わめ)き方をして、視線で射殺してやるとばかりに睨み付けてきました。



 ですが、ここで大聖堂の鐘の音が鳴り、総員機能停止で棒立ち。


 そして100年ぶりに、魔法が乗っ取られる感覚。


 ……またなのでしょうね。今度は抵抗しませんでした。




 投影魔法で創った画面には、1度主神の像の姿を経由して、以前見たままの幼児主神。


 …………と、その背後に全身真っ黒と真っ白の2人の男児と女児。

 見た目そっくりですし、アレは双子でしょう。


 双子の神と言えば、光と闇の神ですね。……であるならば2人ではなく、2柱でした。


 それが、主神より微妙に高い身長で、微妙に隠れられていない感じでこちらの様子をおっかなびっくり見てきます。


 まさに小動物ムーヴ。庇護欲をくすぐり、母性が溢れてきます。

 撫で倒したいです。物をプレゼントして無垢な笑顔で癒されたいです。とにかくお世話をして、頼られたくなります。



 …………いやいやいや!今は双子神に気を取られている場合ではないですよ!


 と私が勝手に混乱していると、不意に正気に戻すような、良く通る第一声が響きました。



「我なのじゃ!」



 はいはい、知ってますよ。100年前もそれでしたからね。

 それよりも背後の双子神様を紹介して下さいよ。愛でたいです、全力かつ本気で。


 そんな私を差し置いて、主神様はゆっくりと、子供に言い聞かせるように語ります。


 100年前の、この大聖堂での過ちを。

 その過ちを止めることに協力してくれた者を、害そうと企む愚かさを。

 自らの悪事すら認められない悲しみを。

 いつまでも更正しない、主神を信仰する宗教への哀れみを。


 …………良いことを言っているつもりでしょうが、私は双子神様にしか注意が行きません。

 時折恥ずかしそうに照れ笑いしておられるそのご様子だけで、ご飯3杯イケそうです。はぁ可愛い。


 幸せに浸っていると、なにやら怒号が聞こえました。



「お前みたいな姿をして、なにが主神か!」


「像は本人の似姿だと聞いている!お前は似ても似つかない!!」


「偉そうな事を訥々(とつとつ)と語っていたが、お前に言われてもなにも響かんわぁ!!」


「つまりお前は神ではない!神とは認めないっ!!」




 言っちゃったよ。100年前の惨劇再び。


 ほら、あいつら真っ青になった。


【主神への反逆者・改】を確認。ほんと、権力を持ったら増長に気を付けないと痛い目見る典型例とか、キレイに見せてくれますよ。


 あ、主神の追撃が決まってますね。改で追加された効果が、全身脱毛。頭部にも影響。

 カミ()を否定したから、お前のカミ()を否定してやったと……酷い駄洒落を見た。



 と言うかですよ。双子神様が、馬鹿の怒号に怯えて隠れちゃったじゃないですか。見なさいな、顔を出さないで、主神の後ろでブルブル震えて……痛ましい。


 …………ねえ主神様~?その双子神様をだっことか、させて頂けませんかぁ?だっこですよ、だっこ。あんな可愛い神様、愛でてあげないと損じゃないですか~。


 ――――なんて、願いは届かないですよね。残念。



 狂乱する教皇達に華を添えてあげるべく、私が仕込んだ追撃の一手が発動しました。


 ばぁん!!と壊れるのではないかと思うほどの勢いで開いた、大聖堂の大扉。


 そこから入ってくるのは、憤怒で我を失いかねない程に荒ぶる、ここの信徒兼聖都の住人達。



 ……実はここの様子を大聖堂の周囲へ、パブリックビューイングと同様に、投影魔法で始終放映していました。


 大変だったんですよ?4方向同時に放映する技術。魔道具の補助がないと駄目でしたから。

 それとその補助する魔道具を、大聖堂へこっそり仕掛ける手間も。



 あとは主神様と住人、各国のお偉いさん達が何とかしてくれるでしょう。


 そんな訳で、仕掛けた魔道具を全部キチンと回収して、面倒な事は皆様に任せます。


 緊急離脱のために転移魔法を展開して。

 それではみなさん、さよ~なら~~。私の為にも働いてくださいね~。





 後で知りましたが、回収した魔道具のひとつに、メッセージが刻まれていました。

 内容は、未来のとある時間、とある場所へ行けと言う指示。

 全く意味は分かりませんが、覚えておこうと思います。


 魔道具にこんなイタズラをする奴は、誰なのでしょうか?1度お説教してやらないと駄目かもしれません。


 イタズラしたのがあの双子神様だったならば、2柱を私の膝に座らせてそれぞれの手で抱き締めながら…………おっとヨダレが。なんてはしたない、反省反省。

~聖都の商業ギルド


「大聖堂の中の様子が魔法で筒抜けになっていて、昨日の『行商神』様の忠告通り、逃げの一手が最上です」


場の一同、ため息。


「住民の多くも目撃していて、隠せないか。この宗教国家……終わるかもな」


「主要国家のお偉い様が一堂に会していて醜態を晒し、主神様からもダメ出しを食らいましたからね」


「看板の付け替え程度じゃしのげない窮地、これは泥舟も同然だな」


「100年前の、勇者騒動の主犯が当時の宗教トップ陣ともバラされましたし、求心力は地の底に落ちると思います」


「『行商神』様の忠告に従い、何時でもこのギルドを引き上げられる準備は出来てる」


「2度主神様が降臨した地として、何か売り物にできませんかね?」


「2度降臨して、2度罰を下した地が、観光資源になると思うか?」


「神様に罰されたいと求める、特殊なヒト達なら……」


「それを観光資源に出来るか?」


「えっと、その~……」


「国内の商業ギルドは、国内の様子を探る為の、最低限の数と人員を残して総撤収。この国は恐らく数十年先まで、良いことが無さそうだ」


「はい!撤収の進捗と、忘れ物がないか確認してきます!!」


「他の奴等は、この国から逃がしたい人達へ現状を伝えてこい!気を付けろよ」


「「「はいっ!」」」


「……『行商神』様が険しい顔をしていたし、大雑把な情報を聴いていたから焦らなかったが、この国はひでーや。生まれ故郷だったんだが、生きるためには捨てなきゃならんかぁ」


「………………世界的宗教のトップ陣が、宗教家のくせに野望持ちで『行商神』様への逆恨みと謀殺を計画。…………はは、笑えねーなコレ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず容赦ないですね~♪ [一言] 短命な人間だからこそ愚かになり易い? 学習しませんよねぇ~、現実世界も(涙)。 前例がはっきり有るのにねぇ・・・
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