異世界童話その1「カエルとヘラジカ」
むかしむかし、とある異世界の火の国に一匹のオタマジャクシがいました。
オタマジャクシは絵を描くことが大好きで、大きくなったら絵で有名になりたいと思っていました。
そんなオタマジャクシも成長し、やがて立派な肥後もっこす…いえ、カエルになりました。
大人になったカエルは念願の絵描きをめざすため一念発起し都へとやってきました。
いろんな出版社へ絵を持ち込むカエル、しかしそこで言われた言葉は、
「君の絵ってなんかオタク臭いんだよね、無駄に性的だし」
そんなことばかり言われ、絵を取り扱ってくれるのはオタク系出版社ばかりで大手出版社には体よくあしらわれ、悶々とした日々を過ごしていました。
そんなカエルのことを遠くから眺めていたものがいました。
火の鳥です。
火の鳥は兄がヘロインを密輸したり、部下がクーデターおこしたりでいろいろ疲れ果てていましたが、
「オタク系コンテンツならまだまだ儲かるはずだ」
そんな魂胆からカエルの絵を大々的に扱ってくれたのです。
するとこれが紙芝居にもなり大ヒット、キモヲタしかしらない絵描きだったカエルは国民的絵描きに変貌をとげたのです。
結婚もし、この世の春を謳歌していたカエルでしたが、その人気も長くは続きませんでした。
徐々に人気は低迷し長年続けた紙芝居も終了してしまいました。
ならばと自分の子供をモデルに使った絵を描いてみましたが、これは人気低迷後も付いて来てくれたファンにすら大不評でした。
そんなカエルですが、火の鳥にとっては他に儲けさせてくれる者も少ない為、優遇せざるをえません。
「僕のだいすきな昆虫を題材にしたプロジェクトを起こしたい」
カエルの唐突な発言に火の鳥は失敗するだろうなと思いながらも得意の口八丁でいろんなところからお金を集めてきてあげました。
まずはカエルと同じように絵描きをしていた揚げ物に絵を描いてもらいました。
カエルが描けよと言いたくなりますが、「僕の名前は前面に出さない方針」という失敗した時の保険なのか謙虚さなのかよくわからない理由で他人に描かせました。
次にお金を出すと好きな昆虫の絵がもらえるかもしれない賭博をはじめました。
そして紙芝居もはじめようとしましたが、ここで問題がおこりました。
誰も紙芝居をやってくれないのです。
火の鳥が提示するお金が少ないのか、他に理由があるのか、とにかく紙芝居をやってくれる人が見つからないのです。
そんなとき一匹のヘラジカが現れました。
「よかったら私に紙芝居を創らせてみないか?」
ヘラジカは昆虫たちが踊る紙芝居をカエルに見せました。
ヘラジカの紙芝居は独特の絵柄のせいもあって他の紙芝居と比べるとちょっと見劣りしましたが、なんともいえぬ味わいを感じさせてくれました。
他に引き受けてくれるところもないし、カエルと火の鳥はヘラジカに紙芝居をまかせることにしました。
ですが紙芝居はすぐつくれるものではありません。
ヘラジカは500日間ひたすら紙芝居を創り続けました。
その間に昆虫プロジェクトが盛り上がることは無く、火の鳥は揚げ物に絵を描かせることをやめ、賭博も儲からないためディーラーが撤退しました。
もはや負け戦でしかありませんが、大人の社会では動き出した以上立ち止まるわけにはいきません。
ヘラジカの紙芝居もついに始まる日がやってきたのです。
最初は誰も期待していませんでした。
紙芝居ファンにとってヘラジカの絵はやはり他の紙芝居と比べると見劣りするようにしか見えませんでした。
ですが独特な絵柄も実は計算されたものであり、ヘラジカの語るお話も実に魅力的であることに紙芝居ファンは気付き始めたのです。
それは巨大なムーブメントとなりました。
大金をかけ宣伝もしまくっている紙芝居ではなくヘラジカの家内制手工業のような紙芝居にお客さんが押し寄せてきました。
「や、やったー」
カエルはたいそう喜びました。
売りたかった紙芝居の客までとられた火の鳥は渋い顔をしていましたが。
そして好評のうちにヘラジカの紙芝居は最終回をむかえました。
なんだかんだ思うところはあってもお金が儲かればよい火の鳥は早速続編をヘラジカに発注しました。
まだまだ描きたいことがたくさんあるヘラジカはよろこんでそれをうけました。
それを知ったファンのみんなは大盛り上がり。
ヘラジカ!ヘラジカ!とどっちゃかばっちゃか大騒ぎです。
ですがその盛り上がりがカエルの嫉妬心に火をつけてしまいました。
メラメラメラッ!
おさえきれない衝動がカエルの心の中でうごめきます。
「ヘラジカには昆虫プロジェクトの2期から外れてもらう、そして僕の名前を全面的に出していく」
(ええ~!何言い出すんだこのカエル、前は自分の名前出さない方針とか言ってたじゃん)と火の鳥は思いましたが権利はカエルが持っている為仕方ありません、ヘラジカにはやめてもらうことにしました。
たいせつな紙芝居から降ろされたことにヘラジカはたいそう落ち込みました。
そしてファンへの礼儀として昆虫プロジェクトから外れることを伝えました。
ファンのみんなは落胆し、やがてそれは怒りへと変わり矛先は火の鳥にむかいました。
火の鳥が運営する紙芝居サービスからは退会が止まらなくなってしまいました。
こいつはヤベエ、と火の鳥はヘラジカを戻してもらえるようにカエルを説得しますがカエルのツラに小便で聞く耳を持ちません。
結局ヘラジカが戻ることはありませんでした。
失意のヘラジカでしたが、それを救ってくれたのはファンの応援でした。
昆虫プロジェクトじゃなくてもヘラジカの紙芝居が見たい、そんな声にハゲまされヘラジカは動きだしました。
密林の奥地でひっそり紙芝居を行ったところ、これも大人気になってしまいました。
「よし!これからもファンのみんなが喜んでくれる紙芝居を創るぞ」
元気を取り戻したヘラジカは末永く紙芝居で多くの人を楽しませるのでした。
いっぽう昆虫プロジェクト紙芝居の続編は全く動きがなくなってしまいました。
「ヘラジカじゃないなら儲からないでしょ」
と、これまでお金を出していてくれた人もお金を出してくれなくなりました。
紙芝居屋さんも大ブームをおこせるけどカエルが嫉妬しない程度の面白さを要求される為、引き受けてくれません。
「誰か、僕の!僕の昆虫プロジェクトを紙芝居にしてくれー!」
カエルはいつまでもケロケロと泣き続けましたとさ。