待つのはそれほど
今日も安定の待ちぼうけ。
ヨシュアとのデートと言われる日。待ち合わせは公園。ありがちなデートスポットでもある。
別に、待ち焦がれていたんじゃなくて、良い天気にぼーっとしてたら時間がたってたっていう。
そろそろ帰ろうか、それとももう少しのんびりしようかなって考えていたらリサを呼ぶ声がした。
「リサっ!!」
憶えのある声に呼ばれたので顔を向ける。金色の髪を乱し、息を切らして走ってきたクリス。
「・・クリス?急いでどうしたの?」
ぼけっとした声で聞き返す。
「・・・リサ。君。ヨシュアと待ち合わせをしてたんだよね?」
一応確認されました。ので、頷く。
「今、何時だと思ってるの?」
低い声。あれ?顔もいつになく険しい。
「ええと 時間?」
最近公園に設置された、洒落た柱時計を見上げた。
ああっ!もう夕飯の時間。
「・・・どうりでお腹がすいたと思った。」
笑ったらクリスは呆れたようにため息をつき、ほっとしたようにリサの頭を撫でた。
レオの来た日。クリスと一緒に夕飯を食べてから、また前の様に話すようになった。クリスが忙しいので時々だけど。
領主様の図書室では良く顔を合わせる。
「とにかく、もう遅いから帰ろう。リサ。」
「え?は~い。」
伸ばされた手を躊躇いなく握って立ち上がる。
そういえば。
「ヨシュアを待ってなくていい?もう暗くなるし、迷子にならない?」
公園の出口付近で、ふと思ったことを口にすれば、クリスが握った自分の手にぐっと力が込められた。
「クリス?」
ヨシュアが兄を長兄ラルフを『ラル兄』次兄クリスを『クリス』と呼び捨てにするのでリサもそうなった。咎めないクリスは本当に穏やかな人だと思っている。が。
「あいつは家に居るよ」クリスが吐き出すように言った言葉は、彼らしくない怒気が籠っていた
「そ、なら、いいや」リサはヨシュアに期待していない。すっぽかされたなら、その日はそれなりに過ごす。ヨシュアと居るのは楽しいけれど、趣味が違い過ぎて困る事も多い。
クリスは黙ってリサの手を引いて歩いた。背中しかみえないからクリスが何を考えているか解らない。ただ、ヨシュアの行動に怒っているようなのでリサはクリスの気を逸らそうと思った。
無言で気まずいのを誤魔化すため、公園の居心地の良さについて滔々と一人語り、最近の地味に面白かった先生のカツラが飛ばされた事件を話す。やったのはヨシュアだ。女生徒主体の調理の授業で、アンが作ったクッキーは石のように固くリサが自分の作ったのと取り換えてあげた。アンはそれを自慢げに級友に配り一つだけ変え損ねた石もどきクッキーを自分で齧って誤魔化してずっと口をもぐもぐしていた。ラルフ兄さんが付け適当に替えた棚が時間と共に歪んで、当の本人の頭を直撃した所を目撃した。とか。
その間もクリスはずんずん歩いてリサを引っ張る。
「今度、一緒に行かない?クリス」
話の脈絡なく思いついた事を言う。ぴた。とクリスの足が止まり危うくぶつかりかける。
家はもう見えているのに
「行く?」
そういえば何処って言っていない。
「公園。」
「公園・・・僕と?」
振り返らず言うクリスに、いつもの気安さで返事をする
「そう。ヨシュアは身体を動かす方が好きでしょ。ラル兄と一緒。私は鈍いから二人の行きたい所にはついていけないし、クリスと一緒なら公園楽しそうだなって。」
「・・・そう。・・・解った。」
その内にってクリスは言って、振り返った顔は優しい笑顔だった。ふふ、とこっちも笑ってしまう。
基本、人づきあいの苦手なクリスは家族と私にしかこんな笑顔を見せてくれない。だから嬉しい。
家に帰ったら激怒っている両親がいて。
え?なんで?
と思うリサ。クリスが必死で両親に頭を下げるので、リサがクリスを庇うというカオスな状態に。
どうやら、私との約束を知っていたくせにヨシュアは他の子と遊びに行っていたらしい。夕暮れまで放っておいた事、最近治安が悪かったていうのの両方で今回は怒ってしまったようだ。
しばらくしたら、あちらの両親まで謝りにきて、当人のヨシュアは来なかった。
なのに、婚約は無しにならなかった。
ヨシュアはきっと照れているんですよ。なんておじさんは言うけれど。
幼馴染のリサからすれば、ヨシュアはきっとリサを女だとは思っていないな。って感じてるのです。
リサはクリスと行く公園を楽しみにしていたから、それほど腹は立たなかった。
クリスは約束を破ったりしない。
そんな安心感から、深く考えず日々を過ごした。
「明日、クリスの見送りだからね。朝はちゃんと起きなさいよ。」
母に聞かされるまで、リサはクリスが王都の学舎に行ってしまう事を知らなかった。
あれから何度か話したのに、クリスは一言も話してくれなかった。
リサは夜。ヨシュアの家に行かなかった。
家族だけでお別れがしたいだろうからと、言い訳して。
部屋で泣き疲れて寝て、朝起きられずにクリスとはちゃんと挨拶も出来なかった。