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婚約者の言う事には  作者: 北見深
幼馴染の言う事には
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旅立つ人

薄桃色の花を咲かせる樹木が、大量に咲かせた花の花弁を校舎の中にまで舞い散らす。


木製の机はかりかりと文字盤を引っ掻く音で満たされて、老齢の教師の小さな咳の音がするのみ。

リサは進級の試験中だというのに目の前にふわり現れた花弁に見入った。

別の教室ではレオが試験を受けている。

彼の受けるのは卒業試験。

クリスがレオと同じ年の時は進学することが決まっていたから、安心していたように思う。レオはこの試験が終わって卒業したらここからいなくなる。学校からじゃなく町からだ。

今年は進学する生徒が居ないから、皆、働きに出るのだが、レオはみやこ王都の商家で髪結師に弟子入りするんだとか。・・彼だけ遠くに行ってしまう。

少し寂しいのはリサに友人と呼べる人が少ないからだろう。ヨシュア以外、頻繁に喋るのはレオくらいだった。


ごほん!


ひときわ大きい咳ばらいがして視線を上げると、先生がこちらを見てた。

慌てて視線を下に向け問題を解くのに集中する。



卒業の日。町では恒例の行事がある。大人公認のお祝いのパーティーだ。

おばさんもリサの父母も卒業式の後のパーティー準備に駆り出された。主役は子供達で大人は裏方。

町一番大きな講堂を貸切るのが主の卒業のお祝いは、数少ない子供たちの夜更かしが許された日。小さな町は夜だと言うのにお祭り気分で盛り上がる。

なので、羽目を外し過ぎた子が危ない目に合わない様、おじさんは有志で夜の見回りに。ラルフ兄さんと出てしまった。

今日は夜更かし出来るからとアンが強請ってヨシュアと一緒に出掛けたので、家に残ったのはリサとクリス。

クリスは最近自分の部屋で食事をしてしまうけれど、今日はリサ一人だから一緒に食べてくれるかも知れない。

二人分だけでいいから夕食はクリスが好きな物を入れて作った。鳥と茸のシチューとリサの父の自家製ドレッシングのサラダ。簡単だけどシチューは温かいうちに食べて欲しいから、リサは火を消すと直ぐにクリスを呼びに行った。


部屋の扉の前で、少し考える。

部屋で食べるって言われたらどうしよう。

どうやって話しかけたらいいのかな。不安になるぐらいには喋っていない。


意を決して戸を叩く。


「・・はい。」

「・・クリス。夕飯出来たよ。」

「解った。」


中で動く気配がない。


「・・・先に行ってて。直ぐ行く。」

「うん。」


一緒が良かったな。


扉から離れて少し歩いて振り返る。

暫く待っても出てこないから先に行くことにした。



手持無沙汰でシチューをかき混ぜていると、玄関を叩く音がした。台所と食卓、玄関は続き間なので、直ぐ解ったから扉の覗き口から外を伺う。

宵闇の中レオが立っていた。


「いらっしゃい。どうしたの?」


まだ外は寒いだろうと開けたら、レオが苦笑した。

「リサが出るとは思わなかった。」

何を言ってるんだろう。

「今日はおばさんもおじさんも居ないよ?」

家族ほとんど外出中だってこの時期の事を知ってる町の子のレオなら解るだろうに。

「クリスは居るんじゃない?」

「クリスに用?」

違うけど、ってレオは言う。

玄関の内と外で話すのも申し訳ないのでリサはレオを「どうぞ、」って招き入れた。

「あ~、やっぱりリサだな。」

「リサだけど?」

きょろきょろしながら入ってきたレオは扉をちゃんと閉めて、それからふう、とひと仕事したように息を吐いた。

リサは鍋に蓋をしに遠ざかったので、もう少し警戒心ってものを覚えた方が良くないか?ってレオが呟いたのは聞こえなかった。


さて、何の用だろうと、レオと向き合う。家族みんなで座るテーブルを挟んでリサとレオは目を合せた。


「今日。来なかったんだな。」


レオが切り出したのは卒業祝いのパーティーの事みたいだ。

講堂を貸し切るのは皆行くけど、レオが言っているのはレオとその友人が集まる小規模の祝いの席の事だろう。

講堂とは別に仲の良い友人同士、別室で催されている。呼ばれてもいないのに行く人はいない。

リサの顔を見ていたレオはふと眉根を寄せ。

「ヨシュアには言ったのに。」

と言った。

そうか、レオがヨシュアにリサも呼ぶように言ってくれていたんだ。

リサはレオに友達認定されたようでちょっとうれしくなる。

「・・私。ひ、人ゴミ苦手だから。聞いてても断ったと思う」

照れる。それと、ヨシュアの馬鹿っていうのとで挙動不審な感じになってしまったけど、レオには行きたくなかった訳じゃないよと言いたい。

多分、言い訳を付けて行かなかったかもしれないし、気にかけてくれて嬉しいのは伝わるといい。

じっとリサを見ていたレオは怒らずに笑ってくれた。おもむろにポケットに手を入れてごそごそすると、レオは箱を取り出した。

テーブルの向こう側から歩いて来てリサの手を取る。掴まれたレオの手の平は男の人にしては繊細で綺麗で、さっきまで外にいたから指先が冷たい。何か温かい物だそうかな。と、違う事を考えてしまう。

「これ、あげるよ。卒業祝い。」

上向けた掌に箱を置いてまた笑う。

女の子が好みそうなあの淡い花色の箱に、肌触りのいいリボンを掛けている。

「え。と。卒業したのは、れ、レオでは?」

「だから、いままでのお礼」

「何もしてない、よ?」

「まあ、貰って。コレ。他の子にも配ってるから。俺の作った髪留めね。」

そう言えば、レオは都で女性相手の髪結とか装飾を扱う仕事をするって言ってたな。

お姉さんのお手伝いは別に嫌々じゃなくて、楽しかったって。

「付けて見る?」

箱を凝視してたら声を掛けられた。

「つ、つける?」

「よし、後ろ向いて。」

え、え?っと戸惑うリサ無視してレオはリサを後ろ向かせた。ひょいと箱も取りあげテーブルに置く。リボンを解き、上蓋を開けるとレオの編んだ花冠の様に繊細な細工物が現われた。

「・・・可愛い」

川べりにある小さな花々を模したティアラの様な形をした髪飾り。

「ちょっといじるね」

レオが髪を手で梳いて、びくりと肩が跳ねる。


くすっと笑われた。


彼は常として持っているピンと括り紐を出し緩くリサの肩までの髪を結う。丁寧で優しい手つきだ。


「じっとしててよ」


レオの言葉に観念してなるべく大人しくしている。

あっという間につけ終わった飾り。くるりとレオの方を向かされて、可愛くなったよ。とお世辞まで言ってくれる。

「見ておいでよ。」

にこにこしたレオの、優しい言葉にリサも早く見てみたくなる。


リサは鏡の有るだろう場所に行こうとしてクリスが部屋への出入り口に居るのに気付いた。


「あ、・・待っ、直ぐ用意するね」


夕飯だった。引き返そうとしたリサにクリスは優しく声をかけた

「いいから行っておいで、リサ。」

「でも。」

夕飯と、レオとクリス。優先順位なんて解らなくて交互に見る。レオは笑顔でどうぞと行くように手で示す。

リサが何処へ行こうとしてたかは聞いていたのだろう、クリスがリサの肩を押してくれた。


「・・レオ。って言った?ヨシュアの友達の。」


入れ替わりにクリスが入り話し始めたので、リサは押されるまま外に出て、そのまま鏡の置いてある場所に向かった。

可愛らしい髪飾り。レオがココを去る前に会えたし、クリスの顔を久しぶりに見た。リサの足音は自分でもわくわくとしているように感じた。


今日、クリスは一緒に夕飯を食べてくれるみたいだ。


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