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婚約者の言う事には  作者: 北見深
幼馴染の言う事には
6/29

花を編む

大きな緑の葉が覆いかぶさる向こうに見えるクリスの部屋を眺める。

そこに居る筈の人とは最近顔も合わせていない。


「リサ!行くぞ。」


ヨシュアが呼ぶ。

リサはヨシュアを振り返り、手を振る彼の所に駆けた。


婚約云々の日から、親の意向もありリサはヨシュアと居る事が多くなった。

リサは年の近い者と遊ぶ事が増え、クリスとは疎遠になった。おばさんの家で食事をする時も、他愛無い会話も無くなった。今では、夕食時クリスが食卓に居る事が珍しい。成績優秀な彼は領主館で脇目も振らず勉強中なのだ。

気まずいリサがあえて話をふらないせいもあるだろうが・・・。

子供のお守りなんか嫌だったのかもしれないと思うと、どんな顔で、何を話せばいいのか、すっかり解らなくなってしまった。

クリスは進学の為領主様の屋敷で特別な教師にならっている。リサの同級生でも一人。そういう子がいて、得意教科だけ別授業だった。

・・おばさん達の噂では、国の中央の学校にも通えそうな成績なんだそうだ。


「リサ。」

「何?」


考え事の途中で、内心びっくりしたが何もないフリで顔を上げる。

と、背も伸び、少年から青年になりかけのヨシュアが覗き込んでいた。彼はリサの隣にいてその前を歩くのはヨシュアの友達。

婚約者らしく偶にデートをするように、とか言われて二人で出掛けた筈なのにいつの間にかヨシュアの友人達と合流する。出来ればリサは去りたい。

「お前、最近ぼーっとしてねぇ?とろい癖にボケたら余計鈍くなるぞ。」

失礼な。考え事をしてただけだ。

「お前も領主様の館行ってんだよな?」

「何?唐突に。」

「リサ馬鹿じゃん?何で?」

不思議そうに聞かれてヨシュアの頭を叩きたくなった。

前を歩く男子が聞き耳を立ててる気配。押し殺した笑いが漏れている。恥ずかしい。

二人は周りにも婚約者認識され出した。その相手から馬鹿とか・・・。

「・・・図書室は解放されてるの。」

クリスがたまに連れて行ってくれてた。

学校で許可を取れば図書室の蔵書はリサ一人でも見に行ける。

「へ~、そうだったのか。リサがクリスを目指しても無理なのに何でかなって思ってたから納得。」

「・・・・・。」

納得しないで、ヨシュアは本なんか一冊も読まない癖に!

チラって一人が振り返り、ヨシュアに行く先を指さす。完全に目が笑ってる。

ヨシュアは歩を早め、リサも急ぐ。俯いて、極力先を見ないように。


ヨシュアと皆の歩くままに付いていき、・・金色の綺麗な髪がよぎって目を向けた。

淡い色のワンピースに身を包んだアンだった。アンは自分と同じくお洒落に真剣な可愛らしい少女達と一緒で、彼女はその中の誰より愛らしかった。晴れた空色は長い自前のまつ毛に縁どられ、丸い頬も白い陶磁器のようにすべらかでクリスと同じ金色の髪は複雑なリサには出来ない様な編みこみをして緩く片側に垂らしている。

「お兄ちゃん。今日は・・・。」

「お!アン。」

何か言いかけ、リサに気付いたアンは口をつぐむ。

可愛らしいアンの仲間はヨシュアを見て目配せし笑いあう。ヨシュアは明るくて、学校では面倒見もよいから下級生に好かれている。

アンは愛想よくヨシュアの友人にも笑いかけ、末の兄を見上げる。

リサより年下なのに軽く紅を引いていたりして、その女の子らしさはリサとは雲泥の差だ。

キラキラしてる女子たちにヨシュアの仲間もにやけている。

「また釣り?」

いつもの川かとアン。

「今日は上流。釣りはしない。魚。居るか?アン。」

「・・・要らない。」

アンの目が呆れたものになった。気が利かないプレゼントだと思っているのだろう。

彼女がどんなつれない発言をしても、ヨシュアは可愛いがっている妹に怒ったりしない。

「そっか。じゃあな。危ない所にいくんじゃねーぞ。」

彼は遠慮なくアンの頭を撫でて、アンに「髪型が崩れたわ!」と怒られていた。


じゃあな、とヨシュアはアンに手を振って別れた。

去り際、リサはアンと眼が合う。

アン以外の少女たちが目配せする。その口元の笑みはさっきヨシュアを見た時の嬉しそうな物じゃなく、どことなく嫌な嗤い。

学校で、リサは直ぐ一人になりたがる暗い奴だから、リサはヨシュアに相応しくない似合わない婚約者。彼女らはそんなリサを嗤っている気がした。あくまでリサの考えだから本当の所は解らない。でも、それで合っている気がする。

リサは少女達から目を逸らし、ヨシュアを追う。川についたら何をして暇をつぶそう。


流れの穏やかな場所でズボンをまくって足を浸すヨシュア。

透明な川の水には小魚や水生の生物が隠れる事無く見えるようで、彼らは上も脱いでしまう。

リサは見ていられなくて少し離れた場所に陣取り座り込んだ。

友人たちは、言葉少なで地味なリサに興味もなく話しかけたりもしない。

騒ぐ声を遠巻きに聞きながら、膝を抱えて俯くリサだった。


俯いていると目に入る、土の上を這う蟻。葉っぱの上にいる小さな虫。白い花弁をふんわり膨らませた花。鋭く見える葉に手を滑らせると、指に葉の表面に生えるちくちくとした毛の手触り。

リサはそうして自分の興味だけを追って、いつの間にか、周りを忘れて花など摘み始めた。


「何してんの?」

「ひっ!!」

「え?そんなびっくりした?」

声を掛けた青年。ヨシュアの年上の友人レオは、声を立てて笑った。嫌な笑い方ではなかった。

目を合せられなくて、手元をみれば、丁度、手元の花を握り潰していた。せっかく輪っかになるまでに編んでいたのだけど。今日は結構上手く出来ていたから少し残念。

「ああ、ごめん。それ、花冠?失敗した?」

目の前にしゃがんでくるレオ。

一応、年長としてぼっちな女子にも声を掛けたんだろうけど。

「大丈夫。です。」

俯いたまま答えるリサ。大丈夫だからどうぞ、皆の所へ。

「直してやろうか?」

直す?

「姉ちゃんに鍛えられたから。出来る。」

顔を上げたら、にっかり笑ったレオがいて、勝手に手から花冠の残骸をとりあげた。

「あ・・・。」

いいのに。と、思う間に花冠から崩れた花を抜き、新しい花を摘んで編み込んでいく。

「・・・凄いね。綺麗。」

思った以上にレオは上手だった。器用な手つきで、リサの作ったものより豪華になっていく花冠。

「だろ?姉ちゃんの刺繍の宿題とか母さんの縫い物とか手伝ってたからな。」

「器用だね。」

「ああ。姉ちゃんの結婚式の花冠も編もうかと思ってるんだ。」

レオは薄紫の花を手に編むのを止めた。花でなくレオをみたら彼は少し泣きそうに見えた。

レオの姉は今年商家に嫁ぐといっていた。他所から行商に来ていた人だから、お嫁に行ったらレオは姉と遠く離れるって・・・おばさんの噂調べ。


どうしよう、なんて言ったらいいんだろう。


結婚式が楽しみでも、仲の良い家族と離れるのは寂しいだろう。リサはどうにかしてレオを慰め、しんみりした空気を明るくしたかったが、空気ぶった切る勢いのヨシュアと違い、どうしていいかさっぱりだった。


ふいに、顔をリサに向けたレオは、暫くリサの顔を見て、

「ふっ!はは、変な顔になってる。」

笑う。

レオが明るい顔になったのは良いが、変な顔ってなんだ。

「もしかして俺が泣きそうとか思った?大丈夫だよ、何色が良いかと考え込んだだけだからさ。」

ぽん。と頭に花冠が乗せられる。

「うん。リサの髪は綺麗な茶だから何色の花でも似合うな。可愛い可愛い。」

ありふれた髪色まで褒め。頭から手を離すついでに髪を梳いて整えられた。


「・・・・。」


タラシだ。レオは女タラシだ。

そう確信したリサ。「アリガトウゴザイマス。」と殊更平坦に礼を言った。


また、レオが笑った。


リサは意外に素直な顔をするんだな。ってどういう意味?褒められては無い気がする。

それから、時々レオと話すようになった。


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