春と花びら
町に花が咲き乱れる季節。家々の窓辺に花を飾って町を明るくするのがこの季節の習わし。
春生まれのリサは、その日、八歳になった。
今年のリサの誕生日も安定のおばさんの家でのお泊り。
何だかリサはおばさんの家の子みたいだ。
リサの誕生日が『春告げ祭』の前日と重なるから悪いのだが、ついでに祝われるヨシュアはちょっと不満そうだ。
夕食が終わり、誕生日のケーキが配られる。甘いものは貴重で、楽しみだけどリサはクリームは苦手。
「リサ。おばさん今年の菓子なんだって言ってた?」
ヨシュアが誕生日のクリームたっぷりのケーキを頬張りながら聞く。
「知らない。」
「・・・役に立たないなお前。」
「・・・。」
だって、お母さんもお父さんもお菓子屋のおばあちゃんのトコに朝から行ってるもの。知らない。
「リサ。砂糖漬け。好きだったよね。」
正面に座るクリスがケーキの上にこの季節に咲く淡いピンクの花弁の砂糖漬けを散らす。
このお菓子の優しい甘さが好きなのを、クリスは覚えてくれているらしい。
「ありがとう。」
お礼が遅れた。言葉に詰まる。
クリスは毎年誕生日の度、何かしらこうやってリサの好物をくれるのだ、が。
ちょっとは女の子として成長した積りのリサは、食い意地が張っているみたいに感じて非常に恥ずかしい。
クリスも最上級生の筈なんだけどな。見た目は大人っぽく背も高くなったのにいつも通り過ぎる。
「リサ、クリスにまた貰ってる。」
からかうようなヨシュアの声。ヨシュアだってケーキ頬張って子供みたいじゃない。
言いたいけどクリスの横でアンがお澄まししながらクスッと笑った。
顔が熱くて俯く。
「ヨシュアも欲しいのか?」
空気を読まないのは長兄のラルフだ。
おばさんは後片づけを始めた。おじさんはただにこにこして見てる。
「欲しくねーよ。」
「そうか?欲しかったらちゃんと言えよヨシュア。我慢は良くない。」
いや、だから欲しくないって!
ラル兄さんとヨシュアの応酬が始まった。
仲の良い二人。
ラルフからしたら、リサ達はいつまでたってもちっちゃな子供なんだろう。もうおじさんの仕事手伝って働いているし。逞しいラルフはどんどんおじさんに似てくる。
思わず、お祭りの準備に駆り出されて行った両親のプレゼントの髪留めを触る。渡したら出店準備にあっという間に居なくなった。色々買ってくれるけれどゆっくり家族で食卓を囲んだ事は無い。
今日は子供たちに配るお菓子を準備する集まりだから、食堂は休んで商店のお菓子屋さんのおばあちゃんと一緒にお菓子を沢山作る。
リサは今日はおばさんの家で寝て、明日はお祭りを見る。ヨシュアと回る予定。
小さい子にお菓子を配る係りの上級生に早くなりたい。そうしたらもっとお祭り楽しくなるかな。
翌日。おじさんとおばさんの間で寝かされていたリサは、起きたら誰もいなくておばさんを探して台所に行った。
設営をしているおじさんと手伝いのラルフがいないのは良いとして、ヨシュアとアンもいない。
台所にはクリスが一人座っていた。
「おはよう。」
「うん。おはよう。ヨシュアは?」
ぼーっとしたまま聞く。
苦笑したクリスは立ち上がって傍まで来た。顔を覗き込み屈む。
髪を梳くように動かして、「寝癖」って言った。
・・・恥じらいが足りない自分にまた赤面だ。
「アンが朝から行くって聞かないから母さんとヨシュアは一緒に行ってる。着替えたらリサも一緒に行こうか。」
あ!寝間着だった。
「きっ、着替えてくる!」
慌てて部屋に引っ込む。急いで着替えよう!
クリスと手を繋いで会場の広場に行くとやっぱりヨシュアはいた。両手にお菓子を抱えて。
合流したヨシュアは悪びれずお菓子を見せびらかした。ここぞとばかりに強請ったのだろう。アン同様お願いが上手なんだから。
ムッとしたのが解ったのかしょうがないなぁって、ヨシュアは自分の菓子から一つ摘んで口に突っ込んできた。
「やるから食え。」
「んむぅ!」
そうじゃない。何か違う!口の中の水分がっ!
咽たリサに果実水を差し出してくれたのはやっぱりクリスだった。