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婚約者の言う事には  作者: 北見深
幼馴染の言う事には
3/29

兄弟

クリスは勉強家の次男だ。

リサより五つ程年上の彼は、妹のアンジェリカと同じ金色の髪に晴天の青の瞳の青年。

他の二人の兄弟が男らしい顔立ちをしている反対に、優しげで整った綺麗な顔をしている。

とにかく、ヨシュアの家は皆美形揃いで、平凡な見た目のリサの家族と大違いなのである。

親が仲良くしてなかったらリサなんか目の端にも入らないだろう。


クリスの部屋は敷地内の端にぴょこっと飛び出した形で、廊下で繋がっている。おじさんが増築した立派な物だ。

淡く青く塗られた扉が真新しいリサにはまだ大きく感じる扉。躊躇ったのち、叩く。今日はもう帰っている筈。クリスは学校から帰っても殆ど外に遊びに行かず勉強ばかりしていると、おばさんが言っていた。


返事が無いのでもう一度戸を叩く。


「誰?・・・リサ?」

ああ、クリスの声だ、と思ったら嬉しくなる。クリスはヨシュアの豪快な遊びに置いて行かれるリサといつも遊んでくれる大好きなお兄さんなのだ。

「・・・入って良い?」

中から返事が無い。

あれ、邪魔なのかな。リサの気持ちは少し下降する。

クリスは12歳で学校でも進学組に入るか卒業するか決める時期にいて『大事な時』。なのだそうだ。リサにはまだよく解らないけれど、邪魔をしてはいけないと父に言われていた。

帰ろうかな?

俯いて足を見る目るリサ。

僅かなに木が擦れる音がして、静かに戸が開いた。

見上げると、クリスと眼があった。

「どうしたの?またヨシュアと喧嘩?」

柔らかく微笑まれて、リサは同じように笑う。

「・・・喧嘩っていうか、遊んでたんだけど忘れられてた。」

「・・・あいつは・・・。」

苦い顔をするクリスにリサは話しかける。

「クリス、お勉強忙しい?」

また本を読んで欲しいとか、ヨシュアの愚痴を聞いて慰めて欲しいとか。思ってはいるけど嫌われたり面倒だと思われたく無いからそれは言わない。

「大丈夫だよ。どうぞ。」

柔らかく笑みを浮かべたクリスが手を伸べて招き入れてくれる。

「おじゃましま~す!」

単純なリサは元気に勝手知ったるクリスの部屋に駆け込んだ。


クリスはその背を見ながら笑みを浮かべる。



クリスの部屋に入ると目に入るのは机と本と本に埋もれたベッドだ。大きな窓を塞ぎそうな本の山。

眺めていたらクリスが「後で片付けるから」と言い訳してきた。リサ相手に言う必要も無いのに。

リサは構わずベッドによじ登る。おばさんの作ったパッチワークのカバーが窓から入る明かりを受けて部屋を明るくしている。足を投げ出しくるんとクリスの方を向く。

「本、読んでいい?」

クリスの部屋にはリサの好む児童書まで置いてある。

「いいよ。僕が読まなくてもいいの?」

クリスは今まで座っていただろう椅子に座る。机には重そうな本が広げてありリサには雑草にしか見えない植物が置いてあって、ノートには少しも読めないクリスの字が書いてあるだろう。

「勉強するでしょう?」

邪魔がしたい訳じゃないのだ。ここに居ると落ち着く。クリスの作る静かな空気が好きなだけ。

クリスはリサから身体を逸らした。勉強を始めると思ってリサは本の山を漁る事にした。

いつもこの辺にお気に入りの本が・・・。

「リサ。」

呼ばれて振り返る。

「リサの好きそうなおとぎ話の本があったんだ。」

クリスは本を手にひらひら振って見せる。

手を伸ばすと遠ざけられた。

何で?

「読みたい?」

「うん。」

凄く。読みたい。にこにこしたクリスの瞳が、これはとっても素敵な本だよって言ってる。

「読んであげようか?」

「いい。自分で読む。学校で勉強してるから大丈夫。」

リサは本が読みたくて頑張って字を覚えている。大分沢山字を読める様になった。クリスに自慢したい。

「そっか、リサ自分で読めるのか。偉いね。でも、いいの?ホントに?」

笑いながら聞いてくる。大丈夫だもん。大げさに頷く。

「じゃあ、はい。」

勿体ぶって差し出された本を受け取る。


意外と重い。膝の上に乗せ新しい紙の感触にわくわくする。

表紙は古いが大切に読まれた物のようでまだ綺麗だ。表表紙に角のある馬が書かれている『ユニコーン』だってクリスに教えられて知っている。

表紙の題名は・・・飾り文字で読めないや。

パリッ。ずっと閉じられていた音だ。眠っていた物語を自分が読むんだ。わくわくと紙を捲る。

「むぅ。」

思わず唸ってしまう。

「どうかした?リサ。」

クリスが笑う気配がする。ズルい。

「・・・読めない。」

本は良いのだリサの年頃の子が読む本であるに間違いない。しかし。

じろりとクリスを見る。悪戯が成功した嬉しそうな顔。立ち上がってリサの横に腰掛ける。

「読めない所がある?」

「字が変。」

「余所の国の言葉だからね。」

子供向けの外国の本。リサに読める訳がない、全然読めない。

「別のにする?」

リサは頬を膨らましてクリスを睨んだ。ヨシュアに反論するのは躊躇うけれど、クリスは大丈夫。クリスはとっても優しいから。

「やだ。これ読む。」

リサの大好きな不思議なお話しが展開しているに決っている。読まないなんて勿体ない。今直ぐ読むのだ。・・・自分では読めないけど。

ふふ、と笑ってクリスはリサの頭を撫でた。

「じゃあ、読んであげるよ?」

「・・・読んで。」

何だか少し負けた気分だ。ふんっ!


クリスはリサを持ち上げて、定位置の膝の上に乗せると本を見やすいように持ち上げてくれた。

リサはクリスを椅子変わりに背を凭れさせ、彼の優しい声に引き込まれる。リサの頭の中で物語は現実味を帯び同じように冒険する。

冒険の途中で窓際のぽかぽかの陽気にリサが寝入るのもいつもの事だ。


中途半端に終わったお話しの続きを聞きに、リサは暫くクリスの学校が終わるまでそわそわ待つことになる。


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