君の為に Ⅰ
別視点
屋敷の一室に淡く華やかな色で統一された部屋がある。
大きな窓は堅牢なはめ殺しだが沢山の光を取り込んで部屋の中を明るくしている。
きらきらと射す光溢れる部屋は、広く楕円の不思議な形をしていた。
一目で女性の物と解る、愛らしいレースをあしらった天蓋の大きなベッド。紗幕にビーズの繊細な刺繍があり、今は眠る人もなく清潔に保たれている。
丸いテーブルと揃いの二脚の椅子。ソファーは二人掛けの物が日の当たる場所に
家具の布張りは壁紙同様淡い色で、春を思わせる花模様。
緑の毛足の長い絨毯と、花模様。室内に居ながら晴天の花園に居るようだった
窓に近寄れば庭が見え、毎年、色とりどりの花が鮮やかに季節が変わる度に咲き変わっていた。
今は見下ろしても庭は眠ったかの様に花は無い。
部屋の中央に男が立っていた。漆黒の衣装で、部屋とは不似合な事この上ない。
髪も目も黒く、精悍な顔立ちと鋭い目つき。背筋がピンと伸びた姿は獅子のような威圧感がある。
男は窓の横、小さな飾り台の上にある大きな絵を見詰めていた。
彼は、部屋の女性的で柔らかな雰囲気とは相容れぬ空気を纏い、ただ黙って絵に視線を向けていた。
その絵は、一人の女性が部屋を見下ろすように微笑んでいた。
幸せそうに。
慈愛に満ちて。