クリスの王都生活 記述者X
同じ学年になったのが幸運だと浮かれてたのは自覚してる!
良く話もするし、仲の良い友達。そして、ゆくゆくは恋人?なんて、思ってたし思われてた!!!
そのクリスが不意に花壇の花を見つめて「リサ」なんて女の子の名前なんか口にするからちょっと焼きもち。
「リサって誰?」
って聞いた。
その時わたしを見たクリスの目が青いガラス玉みたいですっごく怖かった!!
「さあ?」
って、彼とぼけたの。
恋人候補、もしくはちょっとは好かれてるとうぬぼれてたわたしは続けて質問しようとして鳥肌が立ったの!
「何だったかな」
なんていうほんのり笑みを浮かべたクリスの目が更に氷のように冷たくなっていて、それ以上聞いたら恐ろしい事になるんじゃないかってくらい剣呑だった。
わたし、ぜんぜんクリスの傍の女の子じゃなかった・・・。
ぶるぶる震える身体を自分で抱きしめて、先に行っちゃったクリスの背中を見送る。
姿が見えなくなってやっと座り込んで涙が出てきた。
失恋もだけど。怖くて。
その時やってきた友人に顛末をかいつまんで話す。
わたしは止めたのに・・・。勇気ある彼と彼女はクリスに禁断の言葉を聞いちゃったんだ。
皆のいる食堂で
食堂。凍った。心象的に。
入学から学年で一位を取り続けるクリス。穏やかなクリス。同級生で一番人気の美形のクリス。
「リサ」は魔王降臨の呪文だから禁止。
同学年だけには疾風の如く行き渡った。
今の所上級生は知らない。
下級生が来たら速やかに噂を拡散させねば。
はあああぁ。
失恋できゅん。が良かった。わたしの恋って魔王に破壊されたの?!不憫過ぎる!!
そして私の中でも勿論現実世界でも結構な時が流れたわ。
クリスは王都で就職して、私は元々王都育ちだから同じく就職して・・・・・・。
なんと!同じ職場!!なんでか同じ施設で働いてるし・・・昔のわたしなら運命って喜ぶのだろうけど・・・今はびくびくよ。
運命?!恋のっ?!・・・とか、無いから。
あれから私たちは何事も無かった様に前と同じく仲良くしてた。
クリスの時々とっても優しい目もそのままに。だけど、私も賢くなったわ。その優しい目は私を見ていたからじゃないって。そう。クリスは私の髪を見て、とても懐かしそうに柔らかく微笑むのよ。
この艶々の栗色の髪を見てね。
ずっと、仕事三昧だったクリスもいい加減望郷の念に駆られたのか、ある日上司に休暇届を書くと颯爽と故郷に一時帰宅。
魔王様が帰郷して・・・て、ごめんクリス。
失恋の痛手から別の意味で畏怖の対象となった貴方をつい魔王様とか言っちゃうわ。
クリスは帰ってからやたら機嫌がよかった。
命知らずな先輩の一言を聞いてわたしは戦慄した!
「で、リサには会えた?」
魔王降臨~んっ!!んぅ?
「ええ、会えました」
し、しなかった!!え?何故?
「へ~、良かったじゃん。で?」
「で?それだけです。」
先輩は掘り下げる掘り下げる。わたしは机の下に避難したよ?
「ちゅーとかした?」
「はっ?!」
珍しく大きなクリスの声。怒っているけど凍ってないぞ。わたしはそっと机の上を覗く。
「いや、愛しのリサちゃんに久しぶりに会って盛り上がったんじゃないかって思ってさ」
先輩。にやにやしてる。クリスの顔は見えないけど。
石になってる
「・・・・そんなこと・・・言いましたか?」
にやって更に先輩。
「え~、忘れたのか、飲みに行った時言ってたよ~故郷にすごおく大切な女の子が居るって、可愛くて可愛くてベタ惚れだって」
ええええ。
「・・・言ってません」
ちょっとクリスから冷気が
「幼馴染で素直ないい子だとは言いました」
「君が常に持ち歩いてるソレ。その子からの手紙だろ?」
「見たんですか?」
「ん、いや。カマかけた」
チッとクリスらしくない舌打ちがっ!!
「リサは私の婚約者になりました。・・・教えてあげたんですからそれ以上の詮索は止めて下さい」
ひょええええ
くすっと笑った先輩は、からかいの色無く
「良かったじゃん」
と言った。
まお、クリスはほんの少し笑ったようだった。
クリスが次に故郷に帰り、また王都に戻って来た時にはその横に件の呪文本人が居た。
職場にお決まりの挨拶をしに来た二人。こんにちは。と挨拶する彼女は既に人妻。
クリスの。
平凡を絵に描いたような焦げ茶の癖っ毛に同じ色の瞳。背は低めで丸顔だ。
わたしの方があか抜けてる分綺麗だと思ったのは心の中だけだ。
しかし、合点もいった。彼女の髪と私の髪。パッと見は同じに見える。ちょっとムッとした。が、リサと呼ばれた彼女より自分の髪の方が艶ふわだ、と言い聞かせて瞑目する。
「いつもお世話になってる。上司の・・・」
上司と私は目を見合わせた。
お世話?!と、殊勝な説明をしてくれたからである。
そして何より彼女と居る時のクリスの表情が何とも表現しがたい。
入学式で見た時の大人しげなクリスに笑顔を乗せ、さらに噂通りの理想的な王子様スマイル!
魔王から天使にジョブチェンジしたようなその御尊顔。
『リサ』と声をかけ、見つめあい。笑顔を交わしあうクリス。
「うっわ、雹が降る」
晴天のその日に思わず先輩が窓の外を見上げた。
クリスの目が『リサ』が愛しいと言っていた。
既に失恋していたにも関わらず、胸がざわざわした。
「クリス」
というリサの声は遠慮がちかつ甘く、こちらも愛に溢れていた。彼が可愛いと(聞いた事は無いけど予想)思うのも解った。素朴に可愛いわ。これが愛のなせる業ね!
ちょっと職場で惚気ないで。
隣で先輩が泥水を呑んだような顔をしていた。
二人が帰るとどっと疲れた。上司共々椅子に深く腰掛けた。
「見たか。あの顔」
「でれでれでしたね」
「静謐の貴公子とか言われてたのになあ。クリス」
「げ、何そのバカっぽい言われよう」
「学院の時にアイツに懸想してた俺の同期生」
「馬鹿ですね」
「ああ。」
「今日は友人を呑みに誘います」
「俺と行く?」
「先輩は奥さんと鍋でもつつきなさい」
あははと乾いた笑いを交わした。
蕩けるような笑みのクリスに当てられて、熱でそうな二人は今日は真面目に仕事に励もうと思うのであった。
そうだ!!おばさんの持って来た見合いを受けてみる決意をココに表明する。
お見苦しい点もあったと思いますが、さらっと見逃しでお願いします。