レオ 友人の婚約者 下
リサは髪飾りが嬉しかったらしい。
入ってきて一番にレオの顔を見ると、満面の笑顔を見せてくれた。
子犬みたいにてとてと近寄ってきて「ありがとう」という姿は何とも可愛かった。
「リサ」
クリスが呼んで夕食の席を目で促す。
リサは並べた食事を見。レオを見た。
追い返す訳にもいかず、人の家だから夕食に誘うわけにもいかない。クリスは無視してるしで、どうしようと困惑している。
「リサ。」
今度はレオが呼ぶ。
「明日。出立するからヨシュア達と見送り来てくれるか?」
リサはちゃんと誘わないと遠慮して来ないなと学んだ。
ついでに背後のクリスが嫌そうな顔をしていたので面白かった。
「うん。行く。いいの?」
「いいよ。皆が来てくれるわけじゃないからリサが来てくれると嬉しいけど?」
「じゃあ。行く。ありがとう」
そこ、お礼言う所じゃないんだよ。
「良かった。じゃ、帰るよ。夕飯の邪魔して悪かったな。」
「大丈夫。温め直すし。レオの顔見られて良かった。都に出たら、会えなくて寂しくなるし。あ、そうだ。卒業おめでとう。」
笑顔と纏う空気もホンワカ嬉しそうな姿のままそう告げられ、そうかぁ~、俺に会えて嬉しいのか~って、リサが勘違いするぐらい幸せそうに笑うから苦笑いになる。
「・・・そういう所。直そうな」
「え?」
「なんでもないよ、ま、俺も妹みたいに思ってるリサと会えなくなるのは寂しいかな。」
ぽすんと頭に手を置いて撫でるとリサは素直に笑みを浮かべる。背後のエセ義兄が、どんどん無表情になっていく。
「じゃあな。都に遊びに来いよ。案内してやるから」
「ア、アリガトウ。」
棒読みだ。人混み苦手だったか。
手を振って別れて扉が閉じる。
最後まで歓迎されなかったクリスのレオが出て行った時の安堵した表情。
閉まる戸の隙間から見えた笑顔はリサに向けられていた。
「あんなんで、リサが嫁に来ても我慢できんのか?」
心底首を傾げたのだ。
◆◆◆
見送りのヨシュアに聞いたら、「昨日からクリスが体調を崩しててリサが付き添ってる」とのたまった。
あのエセ義兄謀ったな。
「へ~。」
と返しておく。
荷を積んだ馬車は姉の旦那の物。都まで送ってくれる。
荷台に乗り込み皆に手を振る。
呼びもしない女の子が数人。ハンカチで目頭を拭っている。
話はしたけどそんな仲良くないよ。君ら。
そんな、微妙な空気も振り切る様に、義兄の用意してくれた御者が声を掛け、馬車は動いて彼らと別れを告げた。
馬車はぽこぽこと道を抜け、町の外れまで来た
もう一度町を拝むかと荷台の端から顔を覗かせると、
「ええ!!」
必死な顔で馬車を追いかけるリサが居た。
「ちょ。ちょっと停めて!」
御者は素直に止めてくれたがもう少しで町を出てしまう所だった。
「リサ!?」
駆けてきたリサはレオの前で息を整える。抱えている袋は走っている間も邪魔そうだった。
時々け躓いて危ない事この上ない。
「大丈夫か?見送り来てくれたんだな。無理しなくてよかったのに。」
息を整える間話しかける。あの面倒なクリスの面倒はいいのか?!
「俺はその内リサが遊びに来てくれたらいいんだぞ。」
って、軽口を言う。
やっと息を整えたリサは手に持った袋を差し出した。
「ん?何?くれんの?」
「き、気に入らなかったら捨てていいから、け、今朝焼いたから、日持ちするし、大丈夫。味は、多分ふつう。」
実は微かに良い匂いが漂っている。
「何?リサから貰ったもの捨てる訳ないけど?」
受け取って袋を開ける。予想通りの焼き立てパンだ。
ヨシュアが唯一譲らないやつ。ずっといいなと思ってたんだ。
「わたし、が焼いたから、お店と違ってちょっと、形も悪いし。」
食堂を営む両親及び叔母さんの家と、見本には事欠かないリサが作ったパンは素朴で,でもかなり旨いらしく、ヨシュアの家の食卓に良く並ぶと言う。
ヨシュアは時々家から余分に持ってきて学校で食べるのだ。
ヨシュアは他の物は譲ってもそれだけは誰にもやらない。
「パンだ。ありがとう。大事に食べる」
良かった。
と。リサは呟くがレオは内心大喜びだ。
ヨシュアの目を盗んで一口食べたそれが旨かったから一個丸々食べたかった。
一口目でヨシュアに見つかって取り上げられたそれは今リサのくれた袋の中にもあった
「色々ある。大変だったんじゃない?」
「夜のうちに仕込みをしたから平気。」
「そっか、で、クリスは良かった?」
クリス?と不思議そうな顔をしたリサは。ああ、と合点がいたのか
「出掛ける前に体調が悪いって言ってたんだけど、少ししたら良くなったって言ってパンも食べてたよ。」
ああ、リサのパン食べたさに仮病を貫けなくなったのか?
「あれ?もしかしてリサ家に帰ってない?」
「うん。家もおばさん達も朝いないしヨシュアとか帰ってきたら迎えないとだし」
ほぼ嫁だな。
リサの警戒心の無さはヨシュア親子にあると思う。
◆◆◆
レオはリサと別れて荷台に座ると。早速パンを頬張った。
「うま」
外はカリカリ中はふわふわ。ついでに酒の利いたドライフルーツが入っている。
堪能していると視線を感じて、その方向を見れば、ちらちらと御者のおっさんが羨ましそうに見ていた。
勿体ないけど一つやる。
おっさんは至福の顔で、田舎にも旨いパン屋があるんですねぇとの賜った。
「あの子の手作りだから」
言ったら咽た。
「じゃあ、いいお嫁さんになりますね。残念でしたね。坊ちゃん」
と言われて今度はレオが咽た。
後日談として
王都を案内してやるといったリサは王都に住み始めた。
夫であるクリスと。
案内は不必要って言いたいのかな?そういう態度だと悪戯したくなるんだよな俺。