表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者の言う事には  作者: 北見深
各々の回想
13/29

ラルフ 長兄の奮闘 1

母が今日もリサを預かっているそうで、学校から帰ったラルフは走って家に帰る。

母を手伝わないと。

もうすぐもう一人産まれるから、あまり母を煩わせたくない。


急いで帰って、台所に向かう。

リサとヨシュアの餌・・・じゃない、ご飯の時間だ。


「リサ。お口開けて」


お、クリスだな。

ドアの無い台所兼食卓のある場所からクリスの声が聞こえる。

「はい、あ~ん」

クリスはリサの面倒をよく見る。勉強にしか興味を示さなかったのにいい傾向だ。

リサがあんまり面倒を掛けない子供で、ヨシュアがやんちゃなのだ。

きっと今日も早々に食事に飽き、遊び始めヨシュアが脱走。そして母が「リサお願いね!」と追いかけたのに違いない。

ヨシュア。危ないながらも駆け回るからな。俺的には将来が楽しみだ。


いつも平坦なクリスの声は、リサを前に子供らしい感情を乗せる。賢すぎる所為で孤立しがちな弟を子供らしくしてくれるリサはもう半分家の家族みたいだ。

クリスの言葉にリサも拙く言葉に聞こえずらい声を返している。

なんとなく邪魔したくなくてそっとラルフが覗く。

「あ、しょうがないなあ、口から零れたよ。」

急に動いて匙を咥え損ねたリサの口の端に、びっとり飯が付いた。リサは構わず入った分をもぐもぐしてる。まるい柔らかそうな頬が動いて楽しげに上下している。ヨシュアと違って女の子は可愛いな。

ラルフも両親に同感だ。

「じっとしててね。リサ。」

そっと手を伸ばしたクリスは、リサの頬に手を添えると迷いなくその頬に吸い付いた。

「うん。取れた。綺麗になったね」

背を向けた形のクリス。その声から喜色が伺える。


が、・・・・ラルフは僅かに後ずさった。

手、手て、手で取ればよくね?

母ちゃんじゃあるまいし、いや、まだクリスは幼いんだ、この反応で良い・・・筈だ!


「おいしい?じゃあ、もう一口・・・・え?果実水がいい?」

こくんとクリスにあてがわれた果実水を呑むリサの目は楽しそうで、座らされた椅子(がっちり囲われているから落ちる心配なし)の下の足がぶらぶら揺れている。

「リサ。クリスだよ。クリス。言ってごらん。」

「あ~、」

口を開けたリサに匙を持っていく

「クリス。僕はクリス。」

「ま~、あむぅ」

早く頂戴って言ってるぞクリス。

「リサ。ク、リ、ス、言って?」

すうっと匙を引く

「うぅ~」

「クリス。」

リサの眉間に皺が寄ってるぞクリス!

「言ったらあげる」

おいいいい~!!

声にならない声を上げ、ちょっと足を踏み出した時、リサがバチンと癇癪を起してテーブルを叩いた。

手が皿に当たって中身がひっくり返った。

今まで食べていた飯が振りかかってリサが泣いたので、ラルフは慌てて部屋に入った。

「リサ!!」叫んだのはクリス。

わんわん泣きだしたリサを抱きしめるクリスを引き剥がして、手を確かめる。ちょっと赤くなってるが大したことはなさそうだ。

「一応冷やすからな。クリス、そこ片付けておけよ」

抱えたリサの手を貯めてあった水桶の中に浸す。

「痛いとかないか?って、聞いても解んないか。」

リサは案外直ぐに泣き止んで、水に浸かった手をばちゃばちゃやって遊び始めた。うん。大丈夫そうだ。

きゃっきゃ言って水遊びが始まる。

「リサ。もう終わりだぞ。」

離れようとしたら、リサが桶を掴んだ。

「こら、離せってっ。」

乱暴に出来ないので、どうも引っ張りっこの遊びと思われたようでリサの奇声が響く。

「あ~もぅ!」

こういうのはヨシュアと一緒だな。


やっと、剥がしてリサごと振り返った。


「く・・・・クリス?!」


物凄く暗い目をしたクリスがラルフの目を射抜いた。


クリスは突っ立ったまんまでひっくり返した皿もそのまま。ただ兄を食い入るように見ている。殺気か?!俺はやられるのかっっ?!・・・ラルフは本日二度目。後ずさった。


「・・リ・リサ、は、もう大丈夫そうだぞ~・・。クリス?」

何?って言う様に振り仰ぐリサ。抱えてるからぐりんって上を向いてだ。いやあ、そういう仕草も可愛いな!

「らぁ~うっ!」

お、何か俺の名前にも聞こえるな、ラールフッって。あはははは・・・・・はっ!!


「リサは兄さんの名前なら呼ぶんだ?」


おええええ???クリスを見返すと口を引き結んだクリスがリサを見ていた。

「僕は居なくて良いよね。じゃ、後お願いします兄さん」

子供の癖に達観した大人みたいな口調のクリスの声にリサは反応したが、構わず弟は背を向け行こうとする。

「い、い、い、いいや、お前!違うし!今のラルフじゃねぇし!な!リサ、違うよなぁ~!?お前が一番好きなのはクリスだよなっ!なっ!!」

俺は必死で言い募った。

及び、幼女のリサに必死に同意を求めた。

「リサ~!ほら、クリス兄ちゃんが行っちゃうぞ!クリス~!待って~!ってなっ!」

俺は馬鹿か?心で葛藤しつつリサに、クリスの背に、訴えかける。

「って~!なっ!」

リサは俺の様子が面白かったらしい。同じように真似をした。

「ってってっ!」

行きかけたクリスの足が止まる。もうひと押しぃ!!

「クリス!リサが待ってって言ってるぞ!な、ほらリサ!クリスだぞ~!」

「く~って!」

俺の腕の中でクリスに手を伸ばしながら、テッテ言うリサは可愛かった。それ以上にクリスのご機嫌の降下は怖かったが。

腕の中の癒しが「く~」ってもう一度言ったら、クリスが振り返った。その口元には隠しきれない笑みが浮かんでいる。ほっとした。ついでにリサをに差し出す。

「リサ。クリスって言えるようになったね。」

近づく弟に下がりたいのを踏ん張る。クリスじゃなくてクーだけどな。

「おいで、リサ」

大人しくクリスに抱かれるリサ。チビがチビを抱っこするのはまだ危なっかしいが、手を添えてやるのも躊躇われる空気がクリスから察せられ、俺は大人しく片付けを始めた。


リサを抱え込んでいるクリスを窺えば、優しい笑顔になってリサに大丈夫かと問うていた。


俺はとにかく安堵した。


若干クリスが怪しくなっておりますが、ご容赦を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ