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写楽の魅力はヘタウマにあらず!

     1



「写楽絵の魅力はヘタウマである」などと云う人がいますが、それはかんぜんなあやまりです。


 写楽はけっしてヘタウマではありません。むしろ、写楽〈第1期〉の作品は一分の(すき)もないほど神がかっています。


 写楽〈第1期〉の大首絵を「ヘタウマ」と評する人たちは「顔の大きさにたいして身体や手が小さい。だから写楽はデッサン力がない」などと安易な主張をします。


 しかし、ほんとうに写楽が「ヘタウマ」でデッサン力がなければ〈第2期〉の全身像はすべて頭が異様に大きな3頭身キャラになっていたはずです。〈第2期〉の写楽絵は「ヘタウマ」でしょうか?


 写楽が〈第2期〉でえがく全身像は、豊国のえがくそれよりスリムな6~7頭身であり、かつてはその正体を歌麿とうたがわれたほどです。きっと写楽絵を「ヘタウマ」と云う人たちの目には歌麿の美人画も「ヘタウマ」にみえているのでしょう。



     2



 写楽絵を「ヘタウマ」と云う人たちは、あくまで西洋的写実をものさしにしているので、そう云った誤謬(ごびゅう)におちいるのです。


 かれらの感覚で写実だとおもっているものは、伝統的な日本絵画の感覚で云えば〈図画工作〉の〈図〉であって〈画〉ではありません。


〈図〉は設計図などと云う言葉があるように、もののカタチを正確にえがくことをさします。一方〈画〉は、もののたましいや本質をえがくことをさします。こう云った日本的写実の極意を〈気韻生動(きいんせいどう)〉とも云います。


 すなわち、西洋と日本とではリアリティーの定義がちがったのです。


 たとえば、西洋では陸あげされた魚のカタチを正確に描写することが〈写実〉ですが、日本では多少デフォルメしようが、ちょっとくらい図像的にまちがっていようが、海や川の中で生き生きとおよぐ魚のすがたをえがくことこそ〈写実〉とかんがえられてきました。


群仙図屏風(ぐんせんずびょうぶ)』で有名な江戸時代中期の画家・曾我蕭白(そがしょうはく)が語ったと云う、こんなことばがあります。


()を望まば我に()うべし、絵図を求めんとならば、応挙主水(おうきょもんど)よかるべし」


 ざっくり云うと「たましいのこもった本物の絵画がほしければオレにたのみな。うわっつらだけのおキレイな絵図がほしければ円山応挙(おうきょ)でいいんじゃね?」と揶揄(やゆ)したのです。


『浮世絵類考』の言葉をかりれば、写楽のえがこうとした〈(しん)〉こそ〈画〉の神髄(しんずい)だったのです。



     3



〈図〉=客観(西洋)的写実とするならば、写楽がみごとにえがいてみせたのは〈画〉=主観(日本)的写実と云えるかもしれません。


 顔を大きくえがけば上半身は絵のなかにはいりきらなくなりますし、上半身までえがけば顔は小さくならざるをえません。客観(西洋)的写実ならどちらかをぎせいにしなければなりません。


 そこで写楽は人が脳内で認識する主観的な光景を画面上に再構成してみせたのです。


 つまり、写楽が歌舞伎役者の顔をよりそれらしくみせるためにデフォルメしたように、顔と上半身(衣装やポーズ)も、顔メインでみたときに上半身が意識のじゃまにならないていどの大きさへデフォルメして1枚の画面におさめたのです。


 写楽のもちいた主観(日本)的写実は春画にも顕著(けんちょ)です。春画は陰部が大きくえがかれているにもかかわらずぜんたいてきにまとまってみえます。主観(日本)的写実は、客観(西洋)的写実より高度な技術とバランス感覚がひつようなのです。


 そう云った作品をみる感性をうしなった人たちの目には写楽絵が「ヘタウマ」にみえてしまうのかもしれません。

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