写楽と7人のエセ写楽たち!?〈3〉
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〈第2期〉河原崎座8月分の『谷村虎蔵の片岡幸右衛門』は柄頭の金具を2本線でえがいています。本物の写楽は足首の甲に線を2本えがいて丸みをかんじさせていますが、谷村虎蔵のそれはまっすぐでざつです。
また、谷村虎蔵の刀の鍔はお花のようなかたちをしていますが、本物の写楽が鍔の厚みをえがかないはずがありません。とりあえず、このエセ写楽を〈ニセン氏〉とよんでおきます。
柄頭の金具を2本線でえがいているのは〈第2期〉桐座8月分の『二代目市川高麗蔵の南瀬六郎(裃すがた)』もおなじです。
しかし、いいかげんなのは〈ちょうネクタイ柄巻〉をいしきして、むすび目をえがくはずのところを省略して線でつないでいる点です。
本物の写楽は刀の下げ緒を均一な線でえがきますし、下げ緒のむすび目はふたつえがきます。〈ニセン氏〉は刀の下げ緒を均一な線でえがいていますが『二代目市川高麗蔵の南瀬六郎(裃すがた)』のエセ写楽は衣文線とおなじく強弱をつけてえがいているので〈ニセン氏〉ではありません。〈ツナグ氏〉とよんでおきます。
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〈第2期〉河原崎座8月分で、なぜか背景が黄つぶしではなく雲母刷りの『市川男女蔵の富田兵太郎』と『三代目大谷鬼次の川島治部五郎』もおなじエセ写楽です。決定的にちがうのは、こっちも刀の下げ緒に衣文線のような強弱がついているところです。
鍔のえがきかたもシンプルすぎますし、眉のえがきかたもちがいます。とりあえず〈サゲヲ氏〉とでもしておきましょう。
ところで、なぜこの2枚だけ背景が黄つぶしではなく雲母刷りなのでしょうか?
大判は雲母刷り、細判は黄つぶしと云う原則をよくわかっていなかった〈サゲヲ氏〉のミスだとかんがえられます。そして、このことから写楽絵の大量生産へむけて、摺り師もかきあつめられていたであろうことがわかります。
よしんば〈サゲヲ氏〉の指示がまちがっていたとしても、すでに〈第2期〉細判を何十枚と摺っていた摺り師ならまちがいに気づかぬはずがありません。もちろん写楽がじぶんでえがき、指示をしていたらおこりえないミスです。
そして、おそらくそのあとに〈サゲヲ氏〉のえがいた『四代目岩井半四郎の信濃屋お半』ではちゃんと背景が黄つぶしになっているため、上記2枚の雲母刷りがミスであったことがわかります。
ちなみに、〈サゲヲ氏〉が『四代目岩井半四郎の信濃屋お半』をえがいた根拠は、大谷鬼次の頭巾のむすび目(?)のシワと岩井半四郎のまげのむすび目のシワのえがきかたが共通しているからです。
写楽はああ云ったむすび目のひらひらを細長くした柊の葉っぱみたいにちょっととげとげしいフォルムでえがくクセがありますが〈サゲヲ氏〉のニセモノはちがいます。
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このように、きちんと写楽〈第2期〉の作品を詳細に比定してゆくと、北斎いがいにも〈スケル氏〉〈勝川ヨリメ氏〉〈スケルゲ氏〉〈ニセン氏〉〈ツナグ氏〉〈サゲヲ氏〉など、さいていでも7人のエセ写楽(代作者)のいることがわかります。
〈第3期〉からも刀を角材かなにかみたいに四角くえがいてしまう〈カクザイ氏〉や写楽絵でもさいていの『天王寺屋里虹・二代目山下金作』をえがいた〈シャアク氏〉などがくわわり、さいしゅうてきにいったい何人のエセ写楽(代作者)がいたのか比定するのもおっくうなほどです。
しかし、これで、これまでなぞとされてきた〈第3期〉以降の作品の質の低下の原因はあきらかとなりました。ひそかにあつめられた2~3流の浮世絵師や戯作者(?)たちがえがいていたからです。
また、先にごしょうかいした「ふたつ名の写楽絵!」のなぞもあきらかとなります。
鳥山明が悟空とベジータをかきまちがえることはありませんし、尾田栄一郎がルフィとサンジをかきまちがえることはありません。『二代目小佐川常世の勾当内侍』はエセ写楽のえがいたニセモノだから役者をえがきまちがえたのです。




