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写楽と7人のエセ写楽たち!?〈1〉

     1



 エセ写楽のひとりは(くさむら)春朗(しゅんろう)(葛飾北斎)でした。かれのえがいた『嵐龍蔵の(やっこ) 浮世又平と三代目大谷広次の(やっこ)土佐又平』(大判)をトレースして『三代目大谷広次の(やっこ) 土佐又平』と『嵐龍蔵の(やっこ) 浮世又平』をえがいたエセ写楽は前述したように同一人物です。ここでは、かれを〈スケル氏〉とよびます。


 さらに〈スケル氏〉は『三代目市川八百蔵(やおぞう)の不破伴左衛門と三代目坂田半五郎の子育て観音坊』(大判)から顔を反転トレースさせて『三代目坂田半五郎の子育て観音坊』もえがいています。


 くちびるが1本線でぬりつぶされている杜撰(ずさん)さや、足首の描写が『嵐龍蔵の(やっこ) 浮世又平』とおなじです。


〈スケル氏〉のおもしろいところは、役者の顔をトレースしているくせに、細かいところで自己主張をみせることです。


『三代目大谷広次の(やっこ) 土佐又平』と『嵐龍蔵の(やっこ) 浮世又平』では刀の柄頭(つかがしら)によけいな装飾(そうしょく)をほどこしていましたし『三代目坂田半五郎の子育て観音坊』の左足のそりかえった爪先を正面からえがいているあたりは素人に楽々とえがけるものではありません。「ただのエセ写楽じゃおわらねえぞ」と云うプロとしての矜持(きょうじ)がにじみでている気がします。



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『三代目市川八百蔵(やおぞう)の不破伴左衛門と三代目坂田半五郎の子育て観音坊』(大判)から『三代目市川八百蔵(やおぞう)の不破伴左衛門』(細判)もえがかれていますが、こちらは〈スケル氏〉の手によるものではありません。


 まずトレースしていないこと。そして、画面の構図が対角線を意識する写楽ではなく、人物をドンと中央に配する歌川派の役者絵によくあるものなので、勝川派あがりのだれかでしょう。ここではかれを〈勝川ヨリメ氏〉とよびます。


〈勝川ヨリメ氏〉のとくちょうは、人物がきょくたんにヨリ目で、手首の描写があまく、着物の紋様がふとくてざつなことです。着物の紋様がここまでざつなものは、ほかにありません。


〈第2期〉都座(みやこざ)7月分では『六代目市川団十郎の不破万作』、現在所在不明でモノクロ写真しかのこっていない『三代目佐野川市松の不破万左衛門の妻・関の戸』もかれのえがいたニセモノです。3枚ならべてみるとよくわかります。


〈スケル氏〉が『三代目市川八百蔵(やおぞう)の不破伴左衛門と三代目坂田半五郎の子育て観音坊』から2枚のニセモノをえがいているのに『三代目市川八百蔵(やおぞう)の不破伴左衛門と三代目坂田半五郎の子育て観音坊』からのニセモノを〈スケル氏〉と〈勝川ヨリメ氏〉が分担していると云うことは『三代目市川八百蔵(やおぞう)の不破伴左衛門と三代目坂田半五郎の子育て観音坊』のほうが『嵐龍蔵の(やっこ) 浮世又平と三代目大谷広次の(やっこ) 土佐又平』よりもあとにえがかれていることがわかります。


 おそらくは、エセ写楽も一気に確保できたわけではなく、すこしずつ人数をふやしていったのでしょう。さいしょから複数人が確保されていれば、とうぜん『嵐龍蔵の(やっこ) 浮世又平と三代目大谷広次の(やっこ) 土佐又平』もふたりのエセ写楽が分担してえがいたはずです。


 つまり〈勝川ヨリメ氏〉は北斎や〈スケル氏〉のあとから〈写楽工房〉にはいったこともわかるのです。

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