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写楽を写す! 楽するエセ写楽!?〈2〉

 また〈第2期〉8月の狂言『神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)』の一場面をえがいた『四代目松本幸四郎の新口村(にのくちむら)孫右衛門(まごえもん)』(細判)も『四代目松本幸四郎の新口村(にのくちむら)孫右衛門(まごえもん)と中山富三郎の梅川』(大判)から松本幸四郎のすがたを反転トレースしています[図1参照]。


 大判では右のえりもとにのぞく草色の布地が、細判になると左のえりもとにみえている上に、首にまいている手ぬぐいとへんに一体化してよくわからないことになっています。反転トレースしなければおこりえない凡ミスと云えるでしょう。


 さらに、細判では耳たぶがえがかれていないこともおかしいのです。写楽は〈第2期〉大判で男役と女形(おんながた)の耳のシワをえがきわけています。そこまでこだわる本物の写楽が、この作品だけ耳たぶをえがきわすれることなどありえません。


『中山富三郎の義興(よしおき)妻 つくば御前』(細判)も『二代目市川高麗蔵(こまぞう)の亀屋忠兵衛と中山富三郎の梅川』(大判)から、中山富三郎のすがたを反転トレースしています[図2参照]。


挿絵(By みてみん)


 腰からひざまでじゃっかん角度をつけたり、(おび)をかくしたり、足袋(たび)をはかせたりと、なみだぐましいどりょくでトレースをごまかそうとしていますが、文字どおり「とってつけただけ」の右うでがぎこちなくぶらさがっています。


 上記の2枚が反転トレースしたのは顔だけで、身体は反転した図像をお手本にえがいているようです。


 ただし『二代目市川高麗蔵(こまぞう)の亀屋忠兵衛と中山富三郎の梅川』(大判)をえがいたのも写楽本人ではありません。


〈第2期〉大判をえがいたエセ写楽は写楽本人の画風にあわせたのでしょうが、そうじて足が長めです。


 大判と細判のたてのサイズはあまりかわりませんが(大判のほうが3.4cm長い)それでも全身をトレースすると細判の画面から足がはみでてしまうため、全身をまるごとトレースすることができないのです(そのため『中山富三郎の義興(よしおき)妻 つくば御前』は、ひざをふかくおりまげてごまかしています)。


 ただ、ここでこんなもの云いをつける人がいるかもしれません。「おなじ役者の顔をおなじくらいの大きさでえがいたら、顔の線などほぼかさなってもおかしくないのではないか?」と。


 じっさい、わたしもそのかのうせいはかんがえました。しかし、トレースされていないほかの大判・細判の作品をひかくしたところ、おなじような大きさでおなじ顔をえがいてもかなりの差異がでることがあきらかとなりました。


「大谷鬼次」や「沢村宗十郎」をえがいた作品では、顔の大きさがちがいすぎて、ほとんどかさなるぶぶんがありません[図3・4参照]。


挿絵(By みてみん)


 さらに云うと、ニセモノをえがいたエセ写楽(代作者)たちは、かならずしも素人ではありません。正体不明の実力派・新人絵師と云うことで、同業者の浮世絵師たちも刮目(かつもく)していたはずです。なるべく楽をして大量生産したいところではありますが、同業者に一目でニセモノとバレてもいけません。


 そんな同業者の目をあざむくためにも、ただ「トレースしておわり」と云うわけにはいかないのです。

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