写楽の「ちょうネクタイ柄巻(つかまき)」〈1〉
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写楽〈第2期〉では、役者の全身像を大判と細判でえがきました。
〈第1期〉でえがかれた舞台の初演日は、5月5日(都座・河原崎座)、5月8日(桐座)とちかかったのにたいして〈第2期〉でえがかれた舞台初日は、7月25日(都座)、8月7日(河原崎座)、8月15日(桐座)と、かなりバラついています。
〈第1期〉の写楽絵は一斉発売されたはずですが〈第2期〉の写楽絵が一斉発売されたかのうせいはひくいと云えます。
役者絵には、じっさいに舞台をみてえがいた「中見」と、舞台をみないでえがいた「見立」があったそうです。
歌舞伎は毎年11月に年間スケジュールが発表されるので、新作でもないかぎり、舞台をみないでえがくことはむずかしくありません。
しかし、役者絵を買う人々にしてみれば、じっさいの舞台をみてえがいたものとおもいたいはずです。
浮世絵版画の制作には5日かかったとされているので、それぞれの舞台初日か、あるいは舞台初日から5日後に発売されたとかんがえるのが妥当でしょう。
〈第2期〉の写楽絵は都座の7月分(大判4枚・細判13枚)と、河原崎座・桐座の8月分(大判4枚・細判17枚)にわけてえがかれたとかんがえられます。
ただし、本物の写楽がえがいたのは都座の7月分(大判2枚・細判6枚)と河原崎座・桐座の8月分(大判2枚・細判4枚)のみです。
〈第2期〉には、本物とニセモノが混在しているのです。
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その根拠のひとつとなるのが、刀の柄のえがきかたです。
〈第1期〉の大首絵に刀の柄がえがかれているのは7枚。そのえがきかたはすべておなじです。
とくちょうてきなのは、柄巻です。写楽のえがく柄巻は、柄にまいてある糸の交差するぶぶんすべてに「むすび目」が四角くえがかれています。いっぱんてきにむすび目ができるのは柄頭だけです。
刀の柄巻は基本的に3種類あります。ただ糸をまいただけの平巻。見ばえのよい諸撮巻。ゆるみにくい諸捻巻。
さらに、そのなかにも笹流巻・韋巻・荘内巻・常平組かわり巻・蛇腹巻・唐組絲巻・藤巻など、なんとおりものまきかたがあり、実戦むきの柄巻だけでなく鑑賞用に特化した柄巻もすくなくありません。
柄巻は各藩によって独自の糸やまきかたが考案されていたらしく、柄をみただけでそれがどこの藩士の差料(刀)か判別することができたとすら云われています。




