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賢者の迷宮  作者: うにどん
12/18

計画

 その朝、ブラドレイクは目の下にクマを作り宿のロビーへと現れた。迷宮主との対面によほど緊張しているのか、気持ちやつれてもいる。レイフには、綺麗に整えられた赤毛と質の良い礼服が疲れを浮かべた表情に不似合いに見えて、愛想笑いを浮かべた朝の挨拶がぎこちなくなってしまった。

 一方で、いつものごとく非の打ち所のない笑顔を浮かべたヒメリアは、従者の面々にも席をすすめて宿の従業員に追加の茶を注文する。爽快とは言えない一団の空気に、カップから漂う香りだけが爽やかな1日の始まりを告げた。

 昼の会談に向け、領主の警護の要点や迷宮主の生態について確認する。迷宮主は魔物の一種で、その肉体は魔力により生み出されたものだ。賢者の研究によれば、自らの領域内を魔力で富ませることで地に満ちる魔力を増やし、それを食らっているのだという。迷宮を侵されない限り、循環する魔力が迷宮主を生かすのだ。そして、領域内の魔力を操り配下の魔物を生み出したり、また自身の魔力で支配する空間自体をも操る。非常に強力な存在だが、魔物としての弱点は変わらない。レイフの聖魔法が迷宮主にとっても絶大な力を持つことはこれまでの経験で実証住みだ。


「とはいえ、だ。この迷宮に満ちる魔力はかなり濃い。広さからしても、俺がこれまでに調伏してきたような迷宮主とは比べようもないだろう。万一ということもあるから、ブラドレイク公は充分に警戒してほしい」

「ええ…しかし、聖魔法にはどのような迷宮主も叶わないでしょう。安心して会談に臨むつもりですよ」

「油断は禁物だ。俺も聖女どのも最大限貴公をお護りするが、ここは奴の領域。それも、貴公が一番近くで接触するのだから、くれぐれも侮ることだけはしないでくれ」


 レイフは念を押した。言葉の裏に、どうか余計なことだけはしてくれるなどいう思いを込めたが、ブラドレイクはそしらぬ顔だ。

 ヒメリアが口を開く。


「迷宮主は区画代表者が利用する会議所に一人で現れるそうですわね。普通なら迷宮主は姿を隠しているもの…自ら現れるとは、やはり自信があるのでしょう」

「向こうはレイフ殿をお連れしていることまでは知りますまい。だからこそ油断してのこのこと出てくるのですよ」


 ブラドレイクの言葉にヒメリアはかすかに眉根を寄せる。たしかにこちらの素性は領主以外明かしていないが、彼の態度はあきらかに迷宮主への危機感を忘れたものだろう。裏で迷宮主の調伏を望んでいるだろう彼が、軽率な行動を起こしかねないことは明白だ。

 だが、その手段がブラドレイクにないだろうことは、レイフとヒメリアにそれ以上の抑止の言葉をつぐませた。領主には強い魔力も、たくましい筋肉も、伝説級の名剣もない。迷宮主を害せる要因をもたない男なのだ。

 レイフはつい溢れそうな嘆息を飲み込み、今度はうまく愛想笑いを作った。


「とにかく、まずは打ち合わせ通り会談場所には俺と聖女どのが先に入る。迷宮主の害意がないことを確かめてからが、貴公の出番だ」

「……ええ、分かりました」


 一応は得られたその返事にとりあえずの安心を得た。レイフの計画はこうだ。

 まず、安全確認と称してレイフとヒメリアが迷宮主と先に会う。ブラドレイクに何かされやるよりも先に交渉してしまうというわけだ。もし調伏が必要になったとしても、その場に護衛対象は不在にしてもらうに越したことはない。

 計画はヒメリアも了承済みだ。ブラドレイクの依頼もきっちりこなしながら、自身の希望を世界に広げる第一歩を踏み出す。レイフにはその自信があった。


「勇者さまも、油断めされませんように。気を引き締めていきましょう」


 見透かすように、ヒメリアが言った。

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