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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

色々。

秘密の恋の話。

作者: 花菱。


 気まぐれで選んだ全寮制の女子高。別に特別通いたかったわけじゃないけど寮住まいに興味があって、親に頼み込んだ。目立ちたくて、長かった髪の毛もバッサリ切って、とりあえず入学直後に格好良い人という印象を皆に持ってもらって可愛い女の子達にちやほやしてもらおうと頭の悪い計画を立てた。

 入学式の日。たくさんの女の子達の中で一人、外人だろうか、それともハーフか何かだろうか、長く艶やかなブロンドは見た目に反して重量があるのだろう、存外風が吹いているにも関わらず毛先の辺りしか揺れていない。整った顔に嵌め込まれている大きくて薄い青の瞳は鋭く、周りに近づくなと言っているようで、なんて綺麗で、なんて愚かなんだろうと思った。初日からそんな風だったら友達なんて出来ないだろうに。けれど彼女が気になって仕方なくて、思わず声をかけたのだ。今思えば、一目惚れだった。




 結論から言おう、私の恋は実った。彼女とは既に交際三ヶ月目だし、二人の仲も良好だ。ただ一つ問題があるとすれば彼女がそこそこお金持ちのお嬢様で婚約者がいるところ、だろうか。交際がバレてはいけない、と口止めされている。それ自体は別にいいのだ。けれど、


「あー……!遣る瀬無い……」


 そう、私達は温度差が激しすぎる。私は彼女を本気で好きだけれど、彼女は違う。付き合う時に言われたのだ、結婚する前に一度でいいから恋愛というものをしてみたかったから、秘密でもいいのならと。モヤモヤとした気持ちが脳みそを支配していこうとしたその時だった。

 コンコン、と控えめなノックの音。


「はい」


 返事をするとすぐに返ってくる。


「私よ、入れてくれる?」


 ドア越しでくぐもって聞こえる声にベッドから飛び起きる。


 彼女だ!


 彼女から来てくれるなんて珍しい。いつもは、私からしか訪ねないのに。どうかしたのだろうか?


「待って!すぐ開ける!!」


 それでもこういうちょっとしたことに喜んで舞い上がってしまう私は馬鹿なのだろう、重々承知しているつもりだ。


「こんばんは。ごめんね?こんな遅い時間に……」

「ううん、大丈夫。丁度暇してたし」


 彼女の柔らかい微笑みに、負けてしまう。彼女がどんな気持ちで私と付き合ってくれていようとどうでも良く思えてしまう。

 部屋の中に迎え入れてベッドに座るよう言うと、その通り従ってくれる彼女が愛しい。何をしていても可愛く見えてしまうのだけれど。


「で、どうしたの?私の部屋にわざわざ来るってことは用事、だよね」

「うん」


 まあそうだよな。若干落胆する気持ちはどうにも出来ない。それにしてももうすぐ消灯の時間だというのに来るってことは大事な話なのだろう。


「あのね、今度のお休み、一緒に出かけようって言っていたでしょう?」

「うん、言ってたね。……え、もしかして行けなくなった?」

「そうなの。さっきお父様から連絡があったんだけど、食事会に誘われて」


 は……?めっっっっっっちゃ悲しい……。

 え、嘘でしょ、久しぶりのデートだったのに、そんなんあり?いやいやいや仕方ないかもしれないけどさ!?


「え、えー……。それ、って、日にちとかずらしてもらえたりとか出来ないの……?」

「出来ない。ごめんね」


 取り付く島もないようなその言い方に少しカチンときてしまって、いけないと思いつつも彼女を責め始める自分がいた。


「なんで?食事会って言っても、どうせ家族で食事でしょ?デートは土曜日だから日曜日にでもしてもらえばよくない?」

「……急にどうしたの、そんな言い方。皆忙しいからそんなに簡単に日にちをずらしたり出来ないの。お出かけはまたすればいいじゃない」

「でも一緒に行こうって言ってたとこ、土曜日で最後じゃん!だから行こうねって約束したんでしょ!?」

「声、大きい……。駄目なものは駄目だから仕方ないじゃない」


 ああ、こんなことが言いたいわけじゃないのに。彼女の私を見る目がどんどん冷たくなっていく。違う、ほんとはもっと、恋人らしいこと、言いたいのに。口は止まってくれなくて、私の心も限界だったんだなと悟ることしか出来なかった。


「なんで?!少しくらい家族より優先してくれたっていいじゃない!私、恋人なんだよねっ……!?」

「だからっ、声が大きいって!食事会にはあの人も来るの、休むわけにいかないでしょう?!」


 あの人。彼女があの人と呼ぶのは彼女の婚約者のことで――――――。

 頭に一気に血が上った勢いで彼女の肩を掴むと、力が強かったのか彼女の綺麗な顔が痛みに歪んでいた。


「っい、たい……!は、なしてっ……」

「あっ……、ごめっ」


 彼女の声で我に返って慌てて肩から手を離すと、彼女は普段よりも乱雑に立ち上がって部屋のドアの前まで歩いた。そのまま出ていくのかと思ったら、立ち止まり、くるりとこちらを振り返った。


「……大きな声を出して、聞かれたらどうするつもりなの?」

「っ!……ごめん」


 顔は、見れなかった。声は冷たくて、怖くて、何より嫌われたのだと痛感して心臓が千切れてしまいそうだった。


「私の恋人でいるつもりなら、私のことも考えて言動を選んで。……食事会には参加するわ、用事はそれを言いに来ただけ。おやすみなさい」


 バタンと乱暴に閉じられたドアと吐き捨てるような言い方に、私はベッドに沈み込んだ。どうしよう、怒らせてしまった。静かに流れる涙もそのままに、重く感じる体を引き摺って窓を開ける。夜風は冷たくて、熱くなりすぎた私の頭を冷やしてくれた。


「っひ、ぅ……」


 私だけが悪いのかな、恋人を優先してほしいって思うことはそんなにいけないこと?付き合ってくれたってことは少しは私のこと好きなんだよね?私のことより家の方が大事なの?……私よりも勝手に決められた婚約者の方が好きなの?

 的外れなのは分かっている。けれど思わずにいられなくて、頭に浮かんでは消えるたくさんの疑問。それに答えてくれる人はいない。苦しい、苦しくてたまんない。恋って一人でするものだったっけ?


 しばらく夜風に当たって、気持ちはだんだん落ち着いてきたけど涙はまだ止まってくれない。明日には目が腫れてしまうかな。肩掴んじゃったけど痕になってないかな、大丈夫かな、なんてもう考えられるくらいには彼女のことが好きだ。今日はごめんね、おやすみなさい。明日謝るから、卒業するまでは恋人でいさせてね。

 誰でもいいなら、私にしておいてよ。


 この恋が終わるまで、あと二年と八ヶ月ちょっと。


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