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彼は私の×××   作者: 夢呂
【第一章】夏海ゆりの恋
9/88

週末に家めし

――――金曜の夕方。


「ゆり、今日飲みにでも行かない?お洒落なお店見つけたんだよねー」


定時になり、帰り支度をしていた私に陽子が言った。


「あぁ、ごめん。今日はやめとくわ」

私は悪いと思いながら魅力的な誘いを断った。

(いや、本音は行きたい!だけど…ーーーー)


私は陽子に一つ、言いそびれていたことがあった。


「えー、せっかくの金曜なのに!付き合ってよー」


「本当ごめん。私、急ぐから…ーーー」


私はそう言いながら、オフィスを出た。




『地元行きの電車、もう無いので。もう一泊させて貰っても良いですか?』


言いそびれたこと…それは…、

いまだに吹成(ふなり)が、私の家に滞在していること。


――――今日でもう3日目だ。


(本当、何なんだろうアイツは…ーーー)


今日こそは、家から出てってもらわなければ…と、自分に渇を入れ、アパートへと帰った。


「お帰りなさい、先輩」


(こ、この笑顔に、怯んではダメ…!)

玄関まで笑顔で迎えに来た、子犬のような人懐こい彼に、一瞬自然に「ただいま」と言いかけた私はひと息ついてから挑む。


「吹成、いい加減に地元帰りなさいよ、いつまでここに居るつもりなの?」


そう言いながら靴を脱いで、部屋に入るとおいしそうな香りが私のお腹を誘惑する。


(う…お腹が…ーーーー)


「大丈夫ですよ、今、大学は夏休みですから。」


何をどうしたらそういう返事になるのか分からなかったが、

吹成はお腹を押さえた私にクスクス笑いながら答える。


「今日は茄子とトマトと生ハムの冷製パスタです。」



(うわー、なんでタイミングよく出来上がってるんだろう…)


食卓テーブルの上に綺麗に盛り付けられたパスタに、私は見入る。


「食べましょう?…―――どうぞ?」


椅子を引いて、ここに座れといわんばかりの微笑みを向けてくる吹成に、私は敗北感を感じながら大人しく着席した。



(―――なんでこいつ、料理こんな上手なんだろう?)

「美味しい…」

一口食べたら心の声が一部、口から出てしまった。


「お口にあって、良かったです」

ホッとしながら、吹成が言う。

なんだかその表情が、かわいく思えてしまった。


「先輩?」


吹成が私の視線に気付いて、不思議そうに声をかけた。

パスタを巻いていたはずのフォークを持つ手が、いつの間にか止まっていた。


「あ…」

(今…私、吹成に見惚れて…ーーー?)

「な、何でもない」


慌ててそう言って手元に視線を落としフォークを動かしたけど、うまくパスタが巻けない。



(あり得ないから、吹成は。…恋愛対象(そういう)のでは無いんだからーーーー)



「―――吹成は、太一と連絡とってたりするの?」

私は自分から元彼の名前を出した。

別にもう未練もなかったし、私と吹成の唯一の共通の話題だったから…。


すると、吹成は驚いたように一瞬私の方を見た。


「?」

(あれ…なんか、まずかった?)

そう思わせるような、不穏な空気が一瞬流れた。


「太一とは、同じ大学ですが…―――学部も違いますし今は全く。」

寂しそうな表情で、吹成が微笑む。


「あ、そう…」

私もなんとなく決まりが悪くて…それで会話は終了。

(聞かなきゃ良かった。っていうか、未練がましく思われたかな…―――?)



「それより先輩、明日は何します?」

気を取り直すように、吹成が言う。


「え、明日?」

(明日もいるつもりなのか、こいつ…ーーーー。)


「せっかくの休日ですし。どこか観光でもしませんか?」

ふわりと微笑んで、ほんわかしたマイナスイオンを放ちながら吹成が少し首をかしげる。


(―――…なんでこんな懐かれたんだか…)

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