彼の言葉
「ゆりさん?」
気遣うような泉の声に、堪らなくなって私は自分から話を切り出す。
「別れ…ないと…だよね?」
声が掠れたのが、自分でも分かった。
「え?」
「結婚出来ないなら、別れるしかないよね?」
泣いたらダメだとバレないようにそっと涙を拭って、顔を上げて笑顔を無理に作る。
そんな私に、泉は困ったように微笑むと、言った。
「ゆりさんは、そうしたいのですか?」
「………」
(したくない。このまま泉と別れるなんて…したいわけないじゃん。)
私は心の中で即答した。でも、口に出して泉に伝えることは躊躇われた。
“別れなくない”――――…それは…私のワガママだ。
彼を縛り付けて、困らせるだけではないのかと、そんな思いが頭をよぎる。
「ゆりさん…ではこうしましょう?」
黙ったままの私に、泉がそっと口を開く。
「昨日のプロポーズは、一旦忘れてください」
「え?」
自分が断ったくせに、私は泉の言葉が胸に突き刺さる。
(“忘れる”?――――どうして…?)
思わず伏せていた顔を上げると、泉の視線とぶつかった。
「僕の気持ちは変わらないので」
いつもの、人畜無害な笑みの中に、彼の想いがこもっている。
「ゆりさんが僕と結婚したいと思えるようになったら、結婚してくれませんか?」
「泉…」
(それでいいの?…――――待ってて…くれるの?)
驚いていた私に、泉が微笑む。
「僕も、努力しますから」
「努力?何の?」
泣き笑いみたいになった私は、きまりが悪くてふいっと顔をそむける。
「早く結婚したくなるように、です」
泉がそう言って、悪戯笑いながら私を見つめた。
(あぁ…本当に…―――敵わないわ…)
私は彼への愛おしい想いで胸が熱くなった。




