彼の様子
「お疲れ」
19時過ぎ、別室での仕事が片付いて会議室の後片付けをしていると、声をかけられた。
顔を上げると、春田くんがドアに寄り掛かるようにして立っていた。私は昨日のこともあり、目をそらして応える。
「…お疲れさま」
「ゆりも今日終わりだろ?飲みでも行かない?」
春田くんはいつも通りの様子で、軽いノリで私を誘う。
「あ…ごめん。今日は、ちょっと…。」
泉が来る予定だから、とは言えなかった。
でもぎこちなく言葉を濁した私の態度に、春田くんは何かを感じ取ったようだった。
「っそ。じゃあまた明日な」
「うん、じゃあ…」
素っ気なく挨拶して、春田くんは帰っていった。
「もしもし?泉、今どこ?」
会社を出ると、20時前になっていた。
私はすぐに、待たせている泉に連絡をする。
『ゆりさん、もう終わったんですか?』
すぐに電話に出た泉が、驚いたように言った。
「うん、今日からは少し早く帰れそう」
(だから、今週は泉と過ごす時間もあるはず)
そう考えたら、先ほどの気まずい気持ちが薄れた。
『ゆりさん、今どこですか?』
「え?会社出たとこだけど?」
『迎えにいきます、すぐ近くにいるので』
「あ、そうなんだ?分かった」
泉にそう言われて、私は会社の前で待つことにした。
(わ…どうしよう…)
…昨日の朝、プロポーズされたことを思い出したらドキドキしてきた。
春田くんのこともあって、私の心はざわついていた。
私は泉が好き。泉も私を好きだと言ってくれる。
お互いが、お互いを想っていることの奇跡。
―――その奇跡は、“永遠”に続くもの?
今度こそ、信じてもいい?
泉は私を大切にしてくれる。そんなことは分かってる。でも…――――。
『なんで俺じゃダメなんだよ…っ』
ふと昨日の春田くんの言葉を思い出して、胸が締め付けられる。
私が好きなのは、泉だけど…――――。
でも、こんな気持ちのまま、結婚なんて…――――。




