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彼は私の×××   作者: 夢呂
【第九章】彼は私の×××
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プロポーズした翌日に(泉目線)

「あら?」


「陽子さん、お疲れ様です」


ゆりさんの会社の近くのカフェで、コーヒーを注文したところに、陽子さんと遭遇した。


「もしかして、ゆり待っているの?」

レジに並んでいた陽子さんが、僕の隣に立つ。


「はい、もし仕事終わったら一緒に…」帰れないんじゃない?」

僕が言い終わる前に、彼女はそれを遮って否定した。


「ゆり、仕事かなり遅くなるわよ?」


「そう、ですか…」

分かってはいた。仕事の内容までは詳しく聞いていなかったが、引き継ぎで忙しいことは知っていたから。

でも、それでももしかしたら…と、淡い期待を抱いていた自分に、陽子さんは止めを指す。


「合鍵、持ってないの?」

陽子さんが言った。


「………」

持っていない、と言うのが正直悔しくて、僕は微笑んで誤魔化した。


「吹成くんも、まだゆりの信用を得てないってことかな?」


「え?」

“も”と言われると、前の彼氏(おとこ)の存在がちらついて、胸がざわつく。

僕の反応を愉しむように、陽子さんが続けた。


「あれだけ好きだった前の彼のことでも悩んでたからね。そういえばこの間、プロポーズされてたわね」


「………ぇ?」

(プロポーズ?)

昨日の朝、プロポーズしたのは自分だ。

でも、前の彼氏(おとこ)からもプロポーズされていた?


愕然とする僕に、陽子さんが口許を緩める。


「あ、聞いてない?まぁ、言うわけないわよね?君に嫌な思いさせちゃうもの。」


それをあえて僕に話す貴女(あなた)は、本当に僕が邪魔なのですね。


「大丈夫、断ったわよ。即答ではなかったみたいだけどね」


陽子さんは、そう言うと自分が注文していた飲み物を受け取り店を出ていく。


「じゃあ、私は帰るわ。さよなら」


「はい…」

それだけ応えて、僕は次にコーヒーを受け取り店を出る。



…ゆりさんのことが、分からなくなった。


プロポーズしたとき、彼女はなぜ頷いてくれなかったのだろう。

前の彼氏にプロポーズされたとき、彼女はなぜすぐに断ってくれなかったのだろう。


…ゆりさんのことが分からなくなった?

そうじゃない。余裕のない自分が、彼女を追い詰めているだけだ。


自分を客観視しているもう一人の自分が、嫉妬している自分に語りかける。



『好きだよ、泉…』


僕の腕の中で、彼女にそう言ってもらえるだけでも…―――あの、片想いの頃からしたら夢のような現実(こと)なのに。


―――自分の中の独占欲に、歯止めがきかない。


自分だけのゆりさんで居て欲しい。

誰にも渡したくない。

もっと近くに、僕以外の誰にも触れられないところに…。



こんな自分の…醜い気持ち、彼女には知られたくない。


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