表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼は私の×××   作者: 夢呂
【第八章】私の好きな人
83/88

復活したその日に

「おはようございます、ゆりさん」


「………」

(あれ?泉…風邪は?…熱は?)


まだ半分眠っている頭で、私はそんなことを思っていた。

ソファーで寝ていた私の目の前に、いつもの笑顔の泉が見下ろしていた。


「仕事、遅れますよ?」


「あ…っ」

時計を見て、支度をしようと身体を起こす。

コーヒーの香りが、すでに朝食の支度が整っていることを教えていた。




「なんでリビングで寝てるんですか?添い寝してくれてると思ったのに」


向かい合って座り、朝食をとっていると泉が言った。


(言えない…っ。一緒の布団で寝てるとエッチな気分になってしまったから…なんて。)


飲んでいたコーヒーを吹かないように、私はゴクッと飲み込み、パンに手を伸ばしながら然り気無く答えた。


「泉が一人の方がよく寝れるかなと思って。私のベッド狭いし。でも、一晩で回復して良かったね!もう大丈夫?」


早口で答えて話をそらす私に、泉がゆっくりと返事をする。


「大丈夫ですよ。それより、」


じっと見つめる泉の視線を感じて、私は顔を上げられずにいた。


「起きたらゆりさんが隣にいなくて、寂しかったんですけど?」


(私だって…寂しかった…)

だけど、それを口に出したら自分の下心まで悟られる気がして、私は何も言えなくなった。





「今日も、遅くなりますよね?」

朝食を食べ終わり、鞄を持って玄関に向かおうとした私に、泉が聞いた。


「…あ、うん。多分」

(まだ引き継ぎとかあるしな…―――)

私はそう答えながら振り返る。泉が寂しそうに微笑んでいた。


「僕、明日は大学ですから、…今晩20時ぐらいには帰らないとならないので…」


泉に言われて、今日泉が帰ってしまうということに初めて気付いた。


(帰っちゃう…んだ。そっか、そういう話だったよね…)


火曜は大学だから、居られるのは水曜から月曜までだと以前(まえ)に聞いていたことを思い出す。


一緒にいることが、当たり前になってたんだと今になって気付く。そしてそんな自分に、驚いていた。


「どこかで夕食をご一緒出来たらと思ったのですが…無理ですよね?」


「…多分」

無理だとすでに分かっていたけれど、そうは答えたくなくて私は曖昧な返事をしてしまう。


「ですよね、じゃあまた明後日に」

諦めた表情で、泉が言う。

「…うん」

寂しいけど、また明後日には東京に来てくれる。

会えないのは、明日一日だけ。

(なのに、なんでこんなに切ないの…――――。)



「ゆりさん?そんな可愛い反応されると…帰りづらいですよ」

玄関先で、うつ向いていた私を、泉が突然抱き締めた。

「えっ?」

気付いたときには彼の腕の中で、戸惑いながらもその温もりに心は癒される。




「いっそのこと、結婚でもします?」

突然、私を抱き締めたまま、泉が言った。


「なっ…」

(結婚?――――私と?泉が?)

私は驚いて、思考が停止する。

それは冗談?それとも…――。


「僕が就職したら、結婚してください。ゆりさん」


腕の力が緩まり、顔を見上げた私に、泉が改めて言った。

その眼差しは真剣で、私は本気なんだと確信して余計に言葉につまる。



「ゆりさんは僕と一緒に暮らしていくのは嫌ですか?」

泉が、すごく切ない表情を私に向ける。


「嫌なわけないでしょう?」

私はすぐに答える。そんな風に聞かれて、つい怒り口調になってしまった。


(どうしていつも、そんな弱気なのよ…っ)


「良かった」

泉がホッとしたように微笑む。

まるで、私がプロポーズを快諾したかのように。


「え、ちょっと待ってよ…」

(一緒に暮らしたいけど…。“結婚”って、そんな簡単に話を進めて良いものではないよね?)




「あ、とりあえず、時間がないから私行かなきゃ!!」

混乱した私は、時間を理由にその場から逃げることにした。


「あ、ゆりさん!」

玄関で靴を履き終わった私に、泉が後ろから声をかける。


「お弁当とーーーー」

お弁当の入ったバッグを渡しながら、玄関のドアに手をついて私の行く手を阻むと、

「いってらっしゃいのキス忘れてますよ?」


泉がそう言って、私の唇を優しく塞いだのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ