修羅場?
パタンとドアが閉まると胸騒ぎがした。
(泉は、春田くんの後を追いかけて…どうするつもりなの?)
「春田と何話してたのー?」
玄関先に立ち尽くしていた私は陽子の声で我に返る。
「…なにって……」
(それ、言えるわけないよ…)
「知ってるわよ?昨日のことなら」
平然とした顔で陽子が言う。
「えっ、なんで?」
まさか知ってるとは思わず、私は驚いて聞いてしまう。
「春田から聞いた。ちょーど吹成くんに見られて、一気に修羅場と化したんだってね?」
(修羅場…そっか、あれが“修羅場”…――――)
変な感心をしながら、私は事情を知ってるならと陽子に愚痴る。
「春田くんて、酔っぱらうとタチ悪いよね…冗談でキスとか」
「そう?それよりさ、」
私の愚痴を軽く流す陽子に、私は肩透かしを食う。
(えー、ちょっと…。せめて、同意ぐらいして欲しかったわ…)
そんなことを思いながら、陽子の話を聞く。
「…吹成くんって、あれ地なの?」
「え?うん」
いったい買い出しのときに泉と何を話したのか、陽子が悔しそうに言う。
どうしたんだろう突然、と思いながらも、私は聞かれたことに素直に答える。
「噂通り、かなりの爽やかイケメンだったし。優しいし礼儀正しいし、料理は上手だし。何でもそつなくこなせる男って完璧すぎて、逆に怖くない?」
「―――…なんで?」
(“怖い”?泉が?)
「ただ、ゆりがもう傷付いたりしないといいけどなーと思ってさ」
(傷付く?私が?)
「あーいう男って、他にも女いてもおかしくないし?遠距離なら尚更。」
「あり得ないよ、泉はそんなやつじゃない。」
陽子の言葉に、私はすぐに反応した。
―――…だって、あり得ないから。
「そっか。じゃあうまくいくと良いね」
陽子がそう言いながら玄関へと向かうと靴を履き始めた。
「え、陽子?帰るの?」
引き留める訳じゃないけど、驚いて声をかける。
「だって、春田も帰っちゃったし。噂の彼氏にも会えたし、さすがにこれからの時間、カップルの邪魔はしたくないからさ。―――ビール、あげる。吹成くんと飲んで」
そう言うと、陽子はヒラヒラっと手を振って出ていった。
「あ…ありがと。気を付けて帰ってね?」
私がそう言い終わる前に、すでに玄関から陽子は居なくなっていた。




