春田くんが、言うには
慌ただしく出ていった泉と陽子を見ながら、部屋に残った私と春田くんに微妙な空気が流れる。
「………」
「………」
『昨日はキスしてごめん。でもふざけてないから。本気だから。』
先程送られてきたlineの文章を、送ってきた本人が目の前にいる。私は、春田くんの方を向いて勇気を出すことにした。
「あの…春田くん」
話し掛けるのもぎこちなくて、目も合わせられなかった。
「line…見たよ」
「あぁ…」
私の言葉に、春田くんは素っ気ない返事をする。
「本気って、“あれ”…「バーカ冗談だよ」」
私が緊張しながら、どういう意味か聞く前に、春田くんからそれは告げられた。
「えっ?」
(―――冗談?どれが?キスが?“本気”って言葉が?)
「からかっただけ。ゆりって見かけによらず初心だからさ」
戸惑う私に、春田くんが笑って言う。
(なんだ…冗談か…ーーー)
「…本当ひどいよ、もう絶対やめてよね」
冗談だと聞いた瞬間、ホッとしながら私はそう返した。
彼とは仕事のパートナーだし、あの時は酔っぱらっていたし、今後のことを考えたら“冗談”だから“犬に噛まれた”と思うことで流すことが一番最善だと思った。
「でも、まさか彼氏が見てたとはなー。」
(えっ?)
驚いて春田くんの方を向くと、今日初めて彼と目があった。
「俺、完全に悪い奴だよな―。」
目があった瞬間、春田くんは私から目をそらしてそうぼやいた。
「うん。最悪!!」
「ひでーな…」
私が物凄く感情を込めて即答すると、目を合わせないまま春田くんが何か呟いた。
「え?」
「…俺のせいで、彼氏と喧嘩した?」
そう聞かれた時、私はドキリとした。
「なんで?」
誤魔化すように半笑いでそう聞き返しながら、春田くんを見ると、今度は私をじっと見つめていた。
「別に?してたら面白れーのになと思っただけ」
いつもヘラヘラしてる春田くんが真顔で言うと、私の口を親指と人差し指でつまむ。
「ひゃるたきゅんっ?」
(ちょっとー、全く反省してないよこの人!)
なぜかタコみたいな口にされて、すぐに私が春田くんの手を払い除けると同時に、
「ただいまー!」
と陽子の声が玄関からした。
(あ、帰ってきた!!)
私は二人きりから解放されて、ホッとして玄関へと向かった。
「おかえり」
笑顔で出迎えた私を、泉は無言で抱き締めた。
「い…、泉?」




