陽子という嵐
「え、この鍋って吹成くんが作ったの?すごーい。おいしーい」
陽子が泉の作ってくれた鍋に、舌鼓を打つ。
「ありがとうございます」
泉がそんな陽子に微笑んでみせる。
「ほら、春田も食べなよ?美味しいよ?」
お玉で取り皿によそいながら、陽子が言うと、
「…要らねぇ」
春田くんがそっぽを向いてそっけない態度で答える。
(き、気まずい…なんだこの空間は…ーーーー)
まさかこんな夜になるなんて、私は全く思っていなかった。
多分、泉も、そして春田くんも、この展開は想定外だったはずだ。
泉を紹介しろと家に押し掛けてきた陽子が、偶然出くわしたという春田くんを連れて、私の家にやってきたのだ。
昨日の今日なだけに、そして春田くんには先程メールで意味深な発言をされていただけに、私は戸惑いを隠せないでいた。
「あら?もうビール無いじゃん」
もともと私はビールは買い置きしないので、陽子は自分で買ってきた分が無くなると、不機嫌そうな声をあげた。
「ねぇ吹成くん、近くのコンビニまで付き合ってくれる?」
酔っぱらった陽子が、泉に声をかける。
「はぁ?ちょっと陽子…」
(泉じゃないでしょ、ここは春田くんを連れ出すべきでしょ?)
ヒトの彼氏を連れ出そうなんて、普通は考えないと思う。
さすが空気の読めない陽子だ。
「だってゆりは家主でしょう?それに、春田は吹成くんとは行かないだろうし。」
酔っぱらって舌ったらずなしゃべり方の陽子が、泉を指名した理由を話し出す。
(なぜ泉が買い出しに行くのは決定してるわけ?)
私が陽子の采配に不満を言おうと口を開きかけた時、
「というか、二人で話す時間も必要でしょ?あんたたち」
私と春田くんを見ながら陽子がそう言ったのに驚いて、私は口をつぐんだ。
(え…?)
「さ、行きましょうか吹成くん?」
泉を無理矢理連れて、陽子が玄関を出ていく。
パタン、と玄関の閉まる音が、やけに大きく響いた。




