友達からの誘い
(それとも…これも冗談?からかってる?)
いくら見ても、文章から本音を読み取ることができなくて、
私は携帯電話の画面を無意識のうちにガン見していた。
「ゆりさん?」
「ん?」
泉に呼ばれて、私はソファーに座ったまま彼のいるキッチンの方へ顔を向ける。
「何かありました?」
でも、泉がキッチンから手を拭きながらやってくると、私の横に座った。
「え?」
「さっきから、鍋のことで聴いていたんですけど…」
「あっ、ごめん。ボーッとしてた」
笑って誤魔化した私を、泉がじっと見つめる。
「――――春田さんのことですか?」
「え」
突然、核心をつかれて私はフリーズした。
(なんで、分かったの?)
「やっぱり…」
泉がため息をつきながら深刻そうに眉をひそめる。
「ゆりさんは、あの男に惚れられてるって自覚無かったんですか?」
「あ、あるはずないよ!だって同期で、仲良くて…それにいつも冗談で好きとか言ってたし」
「ゆりさん」
私の下唇にそっと親指を滑らせながら、泉が困ったように言う。
「ゆりさんはモテるんですから、あまり他の男に隙を与えないでください…」
「私なんて…」「ゆりさん?」
モテないよ…、と言おうとしたら、泉がそれを遮る。
私を見つめる目から、私はそれ以上何も言ってはいけないと悟った。
「―――…分かった。気を付ける。」
不本意ではあったけど、昨日のこともあるので私は言い返すのをやめて素直に従うことにした。
と、ちょうどそこへ陽子から電話が来た。
「ちょっとごめん、電話出るね」
「はい、どうぞ」
私は泉にそう告げてから、ベランダへ出た。
『もしもし?ゆり?』
「どうしたの?」
『今、彼氏来てるんだよね?』
「え?うん。」
私はガラス越しに泉の方をちらっと見ながら返事をする。
『紹介してよ!!』
突然に、陽子がそんなことを言う。
「え?」
『だって私、まだ見てないんだよ?きちんと挨拶したいじゃない?』
「ちょっと待って…それは彼に聞いてみないと…」
『じゃあ、代わって?』
「え?」
『私が直接交渉するから、代わってよ』
陽子の勢いに押されて、私は泉のいるリビングへと戻る。
「会社の同期の陽子が、泉と話したいって」
携帯電話を渡しながら、私は泉に言う。なぜかモヤモヤして、気が重い。
「え?僕ですか?」
泉が話の意図も経緯も分からないまま私の携帯電話を受け取る。
「電話代わりました。初めまして吹成といいます。――はい。いえ、そんな…」
何か楽しそうに陽子と会話をしている泉を横目に、私はソファーにドカッと座りながらテレビをつける。
「えぇ、そうですね。分かりました。はい、お待ちしてます」
(“お待ちしてます”?今、そう言った?)
泉の言葉に反応してバッと顔を向けると、携帯電話を差し出しながら、泉がすまなそうに言った。
「あ、切ってしまいましたが、まずかったですか?」




