酔っぱらう事はなく
「結構飲みましたね、明日大丈夫なんですか?」
居酒屋を出たら、心配そうに吹成が言った。
(学生のくせに私の仕事に支障がでないか気遣うとか…―――本当に、昔から変に気がつくやつだ)
「私、お酒強いから」
そうさらっと答えながら、ふと考える。
(そういえば吹成とお酒を飲むなんて、高校時代の時は思いもしなかったな…ーーーー。)
「そうなんですね、羨ましいです」
――――吹成はお酒を飲んでも、“吹成”だった。
礼儀正しい言葉遣いも、爽やかな身のこなしも、何もかもが“吹成のまま”だった。
「…先輩は、遠距離とかどう思いますか?」
電車に乗って帰ろうとホームへと向かう途中、
吹成がポツリとそんな事を聞いてきた。
(コイツでも、失恋したら色々へこむんだな…ーー)
と、妙な感心をしながら私は聞かれたことに答えようと考える。
「どうって…別に好きなら関係ないんじゃない?距離とか」
(私なんて、すぐ身近にいた彼氏にフラれたんだし…ーー)
私がつい、やさぐれかかっていると、
「ですよね…」
と吹成が、嬉しそうに言った。
(な、なにその笑顔は…ーーー)
同意されたのがそんなに嬉しかったのか?
少しは慰める事が出来たのだろうか?
「ところで吹成、もうすぐ終電なくなるけど大丈夫?地元の方、電車の本数少ないし、そろそろ電車乗らないと」
私は自宅へ向かう電車に乗りながら、吹成に反対方面行きの電車を指差す。
「ですね」
そう言いながら、吹成は私と同じ車両に乗り込んだ。
「吹成?」
(こっちは、地元と反対方面だよ?)
そう指摘しようと、高校時代より背が高くなっている吹成を見上げるように顔を上げた。
そんな私の顔を待ち構えていたかのように、彼は悪戯な微笑みを浮かべていた。
「地元行きの電車、もう無いので。もう一泊させて貰っても良いですか?」
(こいつ、確信犯か…ーーー?)




