二人で過ごす時間
「大変なんですか?仕事」
私の家で泉の作った夕食を食べ終わったところで、
泉が言った。
「あ、うん…」
私は普通にしてたつもりなのにどうしてバレたんだろうと思いながら答える。
「大変というか…、実は今日、業務内容の変更があってーーーーー…」
会社の話をしようとして、私は口を閉じる。
(バカね…私…。学生の泉に話しても仕方ないのに…)
「あ、ごめん…つまんない話して」
私は泉に謝る。
「どうして?もっと聞きたいです」
「え?」
「ゆりさんのこと、なんでも話して欲しいから」
――――だから、そんなふうに一線引かないでくれと言われた気がした。
(泉って、どうしてそんなに優しいんだろう…)
「…――――そう言われると…余計話しづらいわよ」
年下だしまだ学生なのに、それがなんか悔しくて…私は可愛くない返事をしてしまう。
「そうですか?すみません」
そんな私のことも全てお見通しみたいに、泉が微笑みながら謝る。
「というか、この体勢落ち着かないから…降り―――」
さっきから、ソファーに座っている泉の膝に座らされている私は顔を背けて降りようとした。
「っ、ちょっと…」
でも、私のお腹の前で組まれた腕が、離そうとしない。
「逢えなかった分を取り戻そうかと思いまして」
ギュッと後ろから抱き締めて、泉が耳元で言った。
「っ!!」
(こいつ、絶対わざとだ…ーーー)
『逢えないのツラい』って私が泣いた日のこと、わざと思い出させようとしてる。
「ゆりさん、今日から五日間お世話になります」
勝ち誇ったような表情で、泉が私の顔を横から覗き込む。
「…こちらこそ」
身体を後ろに向け泉の顔に手を添えると、私は自分から唇を重ねた。
(やられっぱなしじゃ、ないんだから!!)
だけど…―――勢いで自分からキスした後、無性に恥ずかしくなった。
私がチラッと見上げると一瞬驚いたような表情をした泉が、私をじっと見つめていた。
ドキンと胸が熱くなった。
愛おしそうに、幸せそうに頬を緩めて、泉が身動きの取れない私の頬をそっと撫でる。
(あ…ーーーダメだ…)
近付く泉の唇に、私は目を閉じる。
そして結局、私はまた泉にやられっぱなしだと、思わざるを得なくなったのだった。




