家族会議(泉目線)
『…ーーー逢えないのがツラい』
涙と一緒にこぼれた、ゆりさんの本音。
あんなふうに自分のことを想ってくれているなんて夢にも思わなかったから、何度思い出しても胸が熱くなる。
あの日のゆりさんの言葉で、僕は“ずっと逃げてきた問題”に、立ち向かう勇気をもらった。
「久しぶりに顔を見せたと思ったら。――――何を考えている、泉」
――――まずは、両親に今後の決意を話そうと僕は東京に就職先が決まったことを告げた。
「自分の未来は、自分で決めるつもりだと言ったはずです」
両親がいる会社に出向き、社長室のソファーに向かい合って座っている。家族が揃うのは、何年ぶりだろう。
そして家族が久しぶりに揃ったというのに、なんの感動もない。家族愛なんて、吹成家には誰一人持ち合わせていない。
分かっていたはずなのに、久しぶりだからかこの空気は居心地が悪い。
「何を言ってるの?泉がいなかったらこの会社は後継者がいないじゃないっ」
父親の秘書でもある母親の、ヒステリックな声が社長室に響く。
「―――ですが、幸い父さんも元気ですし。あと数年は僕が居なくても会社は困らないですよね?」
「それは、数年後戻ってきてくれる…ってことで良いのよね?」
母親が念押しするように僕の話を進めようとする。
「…それは、僕の一存では約束できません」
僕は目を伏せて、言葉を濁す。
「どういう意味だ?」
ソファーにもたれ掛かるようにして座っている父親が、正面にいる僕に鋭い目を向けてくる。
「結婚したい人がいます」
「えっ?泉、何を突然…。貴方には五條家の杏里さんという婚約者がいるでしょう?」
(それは貴女が勝手に決めた話でしょう?)
五條家というのは、会社の取引先の社長令嬢だ。
それだけの理由で、母が勝手に進めている話であって、
僕は会ったこともない。
「―――僕は、彼女としか結婚を考えません」
「そのために、地元を離れて…就職先を東京にしたのか?」
「はい」
父親の言葉に、僕は迷いなく頷いた。
「これまで言われたように選択してきました。高校も、大学も…。―――でも、」
決められてきた、僕の人生。
何も抵抗しなかったのは、そんなものだと思っていたから。
太一の彼女だった、“夏海先輩”も。
自分のモノにしようという気持ちにならなかったのは、全てに対して“諦めて”いたから。
だけど、ゆりさんに再会して…ゆりさんを手に入れて…、
“自分”を取り戻した気がした。
――――だから僕は、“諦めること”をやめた。
「これからのことは全て、自分で決めます」
僕はそれだけ言うと、ソファーからゆっくりと立ち上がる。
「それだけ、伝えに来ました。ーーー貴重なお時間、ありがとうございました」
母のヒステリックな声が聞こえたが、僕は一礼して社長室を出た。
来週から東京に、――――ゆりさんのところに向かえる。
ゆりさんに再会したのは8月、そして来週から10月。
卒業まで、あと半年。
彼女を不安にさせるくらいなら、なんだってする。
なんだって、出来る気がした。




