自分の気持ち
遠距離なんて、簡単だと思ってた。
お互いが想い合ってさえいれば、距離なんて関係ないと思ってた。
なのに、ちょっとしたことで不安になる。
そして不安になると、無性に逢いたくなった。
だけど、“重い女”になんてなりたくないと思ってた。
(私のこの気持ちは、“重い”?“重くない”?)
私は泉に抱き締められたまま、彼の胸の中に身体を寄せた。
「僕に…―――逢いに来てくれたんですか?」
私は泉に嘘をついた。
出張だと、そのついでに寄っただけだと嘘をついた。
本当は逢いたくて…会社を早退してすぐに新幹線に飛び乗ったくせに…――――。
「ゆりさん、今日は日帰りですか?」
泉が私を抱き締めたまま訊ねる。
先程から大学の敷地内で、堂々と抱き合ってる私たちは当然ながら注目されていた。
「そうだけど。泉、とりあえず大学出よう?」
「あ」
私の提案に、泉がやっと状況に気付いて私を放す。
そして優しい瞳で私を見つめて照れたように微笑んだ。
「そうですね」
泉の笑顔は、私に安心感をくれる。
(ずっと傍に居たい。泉の傍に居たい。)
帰りたくない、なんて…ーーーー社会人には無理な現実。
終電までに帰るつもりで、私は泉との限られた時間を大切にすごそうと思った。
「さっきの…見てました?」
大学を出て、泉の家に向かう途中で、泉がポツリと言った。
「え、あぁ…。」
泉が言う“さっきの”とは、女の子に告白されていたことだろうか?
女の子の表情は後ろからだったから見ていないけど、泉が冷たい目で彼女を見ていたのは遠くからでも分かった。
(なんの感情も…持っていないような瞳…。私には向けられたことのない眼差しだった…)
「泉ってモテるんだね、高校の時も凄かったけど」
私が茶化すように笑って言うと、
「妬いてくれたんですか?」
泉が私を見透かすように悪戯な笑みを浮かべて言う。
(嫉妬しなかったと言えば嘘になる…。だけど私は、それよりも…―――)
自分がいつか、泉にあの目で見つめられたらどうしようという不安だった。
恋に終わりはつきものだと、二度もフラれた私は学んでいるから…ーーー。
だからこの恋がいつか終わってしまったらと…不安で仕方ないんだ…ーーー。
「ゆりさん?」
私の暗い気持ちに気付かれないように、私は素っ気なく答えた。
「…別に?」
“本当はめちゃめちゃ嫉妬してた。
本当は泉に逢いたかったから来たの。”
そうやって、素直に言えたらいいのに…――――。
(素直に気持ちを伝えられるあの子の方が、自分よりよっぽど可愛いじゃない…。)




