表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼は私の×××   作者: 夢呂
【第五章】吹成泉の彼女
57/88

突然の出来事

「あの…っ」

大学の講義が行われていた棟から出て、正門へと向かうところで、目の前に女の子が現れた。


「私、二年の花崎(はなさき)あたるって言いますっ」

頬を赤らめて、上目遣いに僕を見上げる。緊張した面持ち。


「私、同じサークルなんですけど」

(…―――こういう子が一番苦手だ。)

純粋で、真っ直ぐで。恋に恋してるような子。


「あのっ」

(僕は知らないのに。君のことを何も知らないのに。)


「好きです、付き合ってください…っ」

(好きになられる理由が、まったく理解できない)


「…ごめんね、僕彼女がいるから」

出来るだけ、優しくそう言ったつもりだった。

でも、その子は目の前から去る気配がない。


「で、でも遠距離で最近うまくいってないとかって」

少し間があって、その子が言った。


「それ、マサルから聴いたの?」

僕はそれには答えずに、逆に問い掛ける。


「あ…」

慌てて口に手を当てる彼女に、僕はきっと嫌悪感を表情に出していたかもしれない。


(図星か…)


「ごめんなさい、でも私…本当に吹成さんが」

そう言ってうつ向く彼女の後ろに、僕は何となく目を向けた。

そして、思わず目を見張る。


(ゆりさん?)

ここにいるはずのない彼女の姿が見えた気がした。

でも、その人は僕に背を向けて足早に大学の正門を出ていこうとしている。


「ゆりさんっ」

(告白されたところを見られた…?)

僕は慌ててゆりさんを追い掛けた。


僕の声が届いたのか、ゆりさんは立ち止まり、ゆっくりと振り返った。

「ごめん、こんなところまで来ちゃって」


(どうして謝るの?僕は逢えて嬉しいのに)

僕の気持ちに気付いてくれないゆりさんは、僕に背を向けようとする。


「ゆりさん?こっち向いて?」

ゆりさんの腰に手を回すと、彼女はゆっくりと僕の胸の中に身体を寄せた。


「僕に…―――逢いに来てくれたんですか?」


久しぶりのゆりさんの温もりが僕の心を癒す。

でも、ゆりさんは何も言わなかった。



「ゆりさん?」

僕が少し身体を離して顔を覗き込むと、ゆりさんは笑顔で言う。


「―――…そんなわけないでしょ、出張よ。」


でも、僕はそれが嘘だとすぐに気づいた。


「近くまで来てたから泉の大学に寄ってみたの」


そう言っているゆりさんの笑顔が、どこか不自然だったから。


(ねぇゆりさん…。無理して笑わないで…ーーー。僕には嘘つかないで下さい…)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ