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彼は私の×××   作者: 夢呂
【第五章】吹成泉の彼女
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元カノの言動

「…どうしてここに?」

翌朝、大学の午後からの講義に間に合うようにゆっくりと家を出ると、アパートの前に奈津美が立っていた。


僕の問い掛けに、奈津美は泣きそうになりながら無理して微笑む。

「泉に…会いたくて」


「―――僕はもう、君と話すことは何もないよ」

僕は奈津美の横をすり抜けながらそれだけ伝えた。


「許してくれないの?」

奈津美のすがるような声が、追い掛けてくる。


「―――…」

(許すとか…そういう問題じゃなくて…ーーーー)


僕は答えに困り、立ち止まる。すると奈津美が追い付いて、僕の腕に腕を絡ませながら顔を見上げてきた。


「私が、浮気したから?」


「…―――」

“浮気したから”それは確かに立派な別れの理由になった。

だけど、もうやめたいと思っていたのは…ーーー付き合い出した、その日からだ。



「じゃあ、夏海ゆりさんが浮気したら?」


「?」

突然、奈津美の口からゆりさんの名前が出てきて俺は驚いていた。


「私この間東京で偶然見かけたの、男の人とホテルに入るところ」


「嘘だ」

僕は即座に、彼女の言葉を否定した。


「信じないんだ?私が嘘ついてると思ってる?」


奈津美は嘘をつく女性(ひと)ではないと知っているはずだ。

だけど、信じることは出来なかった。

僕が黙っていると、奈津美は皮肉っぽく続ける。


「泉、夏海先輩のことずっと好きだったものね」


「どうして…」

僕が、驚いていると奈津美は悔しそうな表情で続ける。


「気づいてないと思ってた?」

怒りで声が震えているようだった。口元が歪みながら口角が上がる。

僕は彼女を落ち着かせようと声をかける。


「ナツミ?」


「私は泉にそうやって名前呼ばれる度に思い知らされてたわ」

僕が名前を口にすると、奈津美の表情がさらに険しくなった。

どうやら僕が奈津美と付き合ったきっかけに、気付いていたようだった。

(気づかれていたのか…ーーー“名前”で何となく付き合い出したこと)



「まさか、夏海先輩と付き合い出したなんて…ーーーっ」

奈津美が吐き捨てるように呟く。

嫌悪感を全身で表しているのがわかる。


(どうしてそれを知っているのだろう…ーーー?)

奈津美のことだ、僕の後をつけていたのかもしれない。

それでゆりさんと再会していたことを知ったのか?

まさか、さらに最近のゆりさんのことまで調べているのか?


「夏海先輩はあの頃と変わってない!男の人に好かれたらそのまま付いていってしまうような人なのよ」


「―――ナツミには関係ない。帰ってくれ」

ゆりさんのことを知ったように言う奈津美に苛立って、そう言った。

だけど本当は、奈津美の言葉が完全に否定できないことに苛立っていたのかもしれない。


(ゆりさんは、鈍感で…底抜けにお人好しだから…ーーー)

男が好意的に近付いていても、直接言われなければ気付かないだろう。

――――…僕の時のように。



「私が浮気しても、どうせ“どうでもよかった”んでしょ?


奈津美が目に涙を溜めながら、近所の目もはばからずに声を荒げる。


「―――…」

僕は、“そんなことないよ”と言うべきだと思った。

だけど声が出なかった。そこまで彼女に嘘をつくのは、あまりに可哀想だと思った。


「私は、本気で好きだったのに…ーーー」


奈津美が本気で僕を想っていてくれたのは知っていたから。

ゆりさんの身代わりにしていた、せめてもの謝罪を…ーーー。



「今までごめん。―――許してくれなくていいよ」



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