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彼女の気持ち(吹成泉目線)
「もしもし、ゆりさん?」
『…うん』
僕の問い掛けに、彼女はつらそうな反応を示す。
胸が締め付けられて、今すぐ抱き締めたくなるような声で。
「今、どこですか?」
会いたくなる、今すぐ抱き締めたくなる。
この距離がもどかしい。
『家だよ…』
ゆりさんの返事に僕は少しだけ安心した。
―――…だけど、気持ちが晴れたわけではなかった。
雨が振り出したところをわざわざ出掛けて、
会う相手…それが気になって…ずっと考えていた。
だけど、ゆりさんが言わないことを聞くのは躊躇われて、
僕はあえて何も聞かなかった。
「何か…ありました?」
だから、こんなことを聞いても意味がないのに。
『え?』
「声が…つらそう…なので。」
『何もないよ、大丈夫。明日早いから寝るね、おやすみ』
ゆりさんは明るいトーンで早口にそう言うと、電話を切ろうとした。
「…おやすみなさい」
聞いたところで彼女が僕に話してくれるわけないのに。
こうして逃げられるのがオチなのに。
(でも、聞かずにいられなかったーーーーー…)
彼女が隠そうとする気持ちを、知りたい。
分かり合いたい。
例えそれが、僕を傷付ける内容でも――――…。




