ゆりと努
中途半端な気持ちにケリをつけるために、出掛けたはずなのに。
行きより帰りの道の方が、気持ちにモヤがかかっていた。
(何してるんだろう、私…ーーーーー)
――――傘を差しながら、水溜まりばかりの道を歩く。
水溜まりを避けて歩いているのに、水溜まりに足をとられ溺れているような、もがいているような気持ちだった。
『君が、夏海さん?』
もう恋愛はしないと決めていたのに、社内でも有名だった新城さんに初めて話し掛けられた時、不覚にもドキッとした。
――――…正直、一目惚れだった。
だけど、馴れ馴れしく声をかけてきた努は、きっと“軽い人”なんだと思った。
『俺と付き合わないか?』
だから、そう言われたとき私は迷った。
もう傷付きたくない、恋愛はしないと自分で決めたはずなのに、それでも彼に惹かれていたから…―――。
『ごめんなさい…』
そんな心に迷いがあったまま、私は彼の申し出を断った。
『どうして?』
『…私、自信がないんです』
『過去に一度、フラれたことがあって…――――』
私の不安を、彼は聞いてくれた。ただ、優しく聞いてくれた。
『これからもご飯とかたまに誘っても良いかな?』
努のそんな優しい気遣いがすごく嬉しかったのも、覚えている。
恋に慎重な私に合わせてくれる努が、すごく誠実で、大人にみえた。
家の前に着いて鍵を開けようとしていた時、携帯電話が鳴り私は我に帰る。
――――着信は、泉からだった。
鍵を開けてすぐに家に入り、通話ボタンを押す。
『もしもし、ゆりさん?』
「…うん」
耳元で、受話器越しの泉の声。
(会いたいよ…ーーー泉…。泉のぬくもりに包まれたいよ!私の迷いを打ち消してよ!)
そう言えたら、どんなに楽だろう。
だけど、言えるはずなかった。泉の気持ちを考えたら、言えるはずなかった。




