電話の最中に
『ゆりさん?どうかしました?』
―――電話の向こうから、泉の心配そうな声。
「あ、ごめん。ボーッとしてた」
私は笑って、そう答えた。
家の壁時計に目をやると、夜の九時を過ぎている。
(もう、帰ったよね…?)
『今日何かあったんですか?』
「…なんで?」
泉からの問い掛けに出来るだけ明るい声で、私は言葉を返す。
そんな繕いをしている時点で泉に対して失礼なのに。
『声に、元気ないです』
「雨、がね…。降ってきてて…」
私は窓の外を眺めながら、なぜかそう答えていた。
(――――すごい本降りになってきたけど、努は大丈夫だろうか…)
『でも待ってるから。ゆりが来てくれるまで…』
――――頭から離れない、努の言葉。それが今も私を落ち着かせない原因だ。
『ゆりさん、雨苦手なんですね?』
「雨好きな人はいないでしょう?」
『………』
「………」
泉が黙ると、私は心を読まれている気がして…―――困った。
ザァァ…と雨の音が、耳につく。
「―――…ごめん、泉」
(やっぱり気になる…。努のこと…ーーーー)
『どうかしました?』
「私、ちょっと出掛けてくる…」
『え?雨なんですよね?』
「うん、雨…。」
(だけど、行かないと…ーーーきっとずっと、中途半端な気持ちのままだ)
「…帰ったら連絡するから」
『…気を付けてくださいね…』
少し間が空いて、泉が言った。
「ありがと」
私は通話を終わらせて、私はすぐに家を出る。
ピンクの傘を差して、待ち合わせの…ーーーよくデートで行ったあのレストランへ急いだ。




