疑心(吹成泉目線)
二週間ぶりにゆりさんに会えて、僕は幸せだった。
高校時代密かにずっと夢見てた「一緒に登校したい」という願いも、まさか叶えることが出来るなんて思ってもいなかった。
―――家に着くと、ゆりさんは今日会ったときのようにまた緊張していた。
(なんか初々しくて、かわいいな…ーーー)
ゆりさんに気付かれないようにクスッと笑って、僕はキッチンへ立つ。
「あ、私も」
「ゆりさんは、お客さんですから座ってて」
気を遣って手伝おうとしてくれたゆりさんに、僕はソファーで待つように促す。
(残業遅くまでとか、昨日も遅くまで飲んでたからきっと疲れてますよね?)
僕はソファーで緊張しながら座ってるゆりさんの後ろ姿に、
幸せな気持ちで料理をしていた。
「……ゆりさん?」
あまりに静かだと思ったのは、料理が出来上がってお皿に盛り付ける前の事だった。
さっきまで緊張しながら座っていたゆりさんの姿がなくて、
僕は焦ってソファーまで見に行く。
(寝てる…ーーー)
無防備な寝顔で、ゆりさんは体を斜めにして眠っていた。
(やっぱり疲れてたのかな…ーーー)
僕はあまりの可愛さに、どうしようもなく触れたくなった。
起こさないように、ゆりさんの肩まで伸びているサラサラの髪にそっと触れる。
(…――――え…ーーー)
ドクンと心臓が嫌な音をたてた。触れた髪の隙間から覗く首筋に、僕は目を見開く。
右側の首に掛かっていた髪をそっと退けると、そこに赤い痕があった。
(蚊…―――?)
信じられない思いで、僕は必死でそう思おうとした。
そう思い込もうとした。
――――でも、この赤い痕が…なんなのか…僕は知っている。
この柔らかく白い肌に、こうして残る痕を…ーー。
(…―――誰が…?)
ふと、今日会ったときにゆりさんが『終電を逃した』という話が一瞬頭をよぎる。
(同期と飲みに行くとは言っていたけど、そういえば女性だとは言ってなかった…ーーー)
どんどん思考はネガティブな方向へ向かってしまう。
なぜなら彼女は、――――僕がずっと好きだった女性だから。
―――きっと一生、手に入らないと思っていた人だから。
疑いたくないのに、どうしようもなく不安ばかりが心を支配する。
僕は気持ちを落ち着けるためにゆりさんから離れ、とりあえず夕御飯の準備をしようとキッチンへと戻った。
(きっと何かの間違いだ…ーーーゆりさんが浮気なんて有り得ない…)
僕はゆりさんのことをよく分かっているつもりだ、だから信じればいいんだ。
そう言い聞かせながらお皿を準備するが、なぜか手が震え、カチャカチャと音をたてる。
ゆりさんの起きた気配がして、僕は声をかけた。
「ゆりさん、食べましょう?」




