泉の部屋
その日の夜、私は泉が一人暮らししているというアパートに招かれた。
「どうぞ」
泉がドアを開けると、私の背中に手を回す。
「お邪魔します…」
なぜか緊張しながら、私は初めて彼の空間に足を踏み入れた。
部屋は片付いていて、必要最低限の家電家具以外は何も無かった。
(泉らしい…ーーー)
「ごはん、作りますね」
泉がそう言いながらキッチンへ向かう。
「あ、私も」「ゆりさんは、お客さんですから座ってて」
まぁキッチンにいても泉の邪魔にしかならないだろうと思い、私は大人しくソファーに座る。
(なんか…ーーードキドキして落ち着かない…ーーー)
カチャカチャと食器の並べる音が心地好く聞こえてきて、
私はふと目を覚ました。
(嘘…寝てた…ーーーっ!)
泉はキッチンにいたままだったから、気付いていないようだ。私はホッとしながら、斜めに傾いていた体を起こす。
「ゆりさん、食べましょう?」
まるで待っていたかのように、泉が声をかけてくる。
「あ、うん…」
「美味しい!!」
「良かったです。―――ビールもありますけど飲みますか?」
「あー、いいや。要らない。ありがと」
昨日飲み過ぎたことを思い出して、私は首を横に振る。
「ゆりさん昨日…ーーー」
「ん?」
泉が何か言いかけて、口を閉ざす。
「昨日、なに?」
私が聞き直すと、泉は…言うのを躊躇いながら口を開いた。
「―――…昨晩…終電なくてどうやって帰ったんですか?」




