高校時代を思い出す
高校の校舎は、あの頃と全然変わっていなかった。
土曜日だというのに、部活をしている高校生がグラウンドや体育館でイキイキと体を動かしているのが囲いの隙間から見える。
こんな風景が、遠く懐かしい…ーーー。
「――――ゆりさん?」
そんな気持ちで高校の前を歩いていると、不意に泉が私の顔を覗き込む。
「え、あ…何?」
「今、何を思い出してたんです?」
「何も…」
私は笑って答える。
「それより、泉は前を通り過ぎるだけで良かったの?」
「え?」
「バスケ部のOBとして顔出したりしないの?」
「後輩は僕のこと、知りませんから」
体育館の方を向きながら泉がそう言うと、私の顔を見つめて、
「それよりゆりさんが、僕の部活を覚えててくれて…嬉しいです」
と、微笑んだ。
「あ…」
私はなぜか墓穴を掘ったような気持ちになりうつ向く。
言い訳がましいけど“吹成泉”は一年の頃からバスケ部のエースで有名で、それは当時の同じ高校生ならみんな知っていたわけで。
―――当時の私は太一と付き合ってから、彼の親友がそういうことで有名だったのを知った。
(そう言えば三年の時に一度だけ、友達の付き添いで試合を観に行ったこともあったな…ーーー)
あの頃私は太一と付き合っていたから泉に特別な感情はなかったけど、でも試合中の泉は確かに格好良くて、友達がキャーキャー騒ぐのも頷けた。
(そんな彼が…今私の隣にーーーーー)
なんだか不思議な気持ちで、私が泉を見つめ返す。
すると、泉がクスッと笑って言った。
「僕は覚えてますよ、一度だけバスケの試合を観に来てくれたこと」
「えっ!?」
「夢かと…見間違いかと思いました。ーーーだってゆりさんが来てくれるなんてあり得なかったから」
「―――それは…」
「はい。分かってましたよ、お友達の付き添いで来てたんですよね?」
「―――知ってたんだ…」
「見てましたから、」
そう言いながら、泉は繋いでいた手に少し力を込めて、
「だから今も、夢みたいで。―――幸せすぎて怖いです」
と言って微笑んだ。
「大袈裟」
私が泉を苦笑しながら見ると、泉はただ黙って…愛おしいものを見つめるように熱い視線を送ってくる。
ドキン…
胸が激しく鳴り、私は恥ずかしくなってうつ向く。
(うわ…なんでこんな顔暑いの…ーーーっ)
繋いでいる手から、私の高まる気持ちがバレないか…、
私は気になって繋いでいた手をじっと見ていた。
「ゆりさん?手…―――嫌ですか?」
「えっ!?」
(わ…声裏返ったし…ーーー)
「嫌なら…離します…」
そう言いながら、泉が私の手を離そうとした。
「嫌じゃない…っ」
私が慌ててそう言うと、泉が悪戯に微笑んだ。
(あ…ーーー騙された…ーーーー)
私は真っ赤になりながら、心の中で悔しがる。
「ゆりさん、かわいい…」
――――耳元で泉が、嬉しそうに囁いた。




