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彼は私の×××   作者: 夢呂
【第三章】遠距離/近距離の恋
36/88

ごめん

私は、ホテルの手狭な部屋のシングルベッドに横になっていた。


(酔いが回りすぎて吐きそうで動けないとか…ーーー何してるんだろう私…)


自分が無意識に春田くんに合わせていて、ついお酒を飲みすぎていたことに今更後悔する。


春田くんはシャワーを浴びに行っていて、部屋にはいない。

――――ただ、シャワーの水音が部屋にまで響いている。


(あ、ケイタイ…ーーー)


泉に「同期と飲みに行ってくる」と会社帰りにメールを送ってからずっと携帯電話を見ていなかったことに気付き、

ベッドの横に置かれていた自分の鞄から携帯電話を探す。


泉からは、「行ってらっしゃい。飲みすぎないでくださいね」とメールが入っていた。


(泉の声…ーーー聞きたいな…ーーー)

ベッドに仰向けになりながら、指で携帯電話の画面を操作して電話帳を開く。

でも、―――「発信」ボタンを押すことができなかった。


(泉になんて説明するの?言えるわけ無い…ーーーー)

飲みすぎて、同期の男とホテルにいる、なんて…ーーー。


そう思っていると、シャワー音がやんで、ガチャッとシャワールームの扉が開いた。


「ゆり、大丈夫?」


春田くんは、いつもの春田くんに戻っていた。

さっきまでの怒っていた様子はなく、むしろ申し訳なさそうな表情で私に尋ねる。


「あ、うん…。ちょっとまだ気持ち悪いけど…なんとか」

タクシーを降りて、手を引いてホテルのロビーに足を踏み入れた途端私は吐きかけたのだ。


(恥ずかしすぎる…ーーー)

飲みすぎなのに気づいていない私に、春田くんは怒っていたのかな?

そう考えたら、迷惑かけてるな…と私も申し訳なくなる。


「ごめん、春田くん寝たいよね…私一人でも帰れるから…ーーー」

重いからだを起こして私は言う。


「いいよ俺は、ゆりが落ち着くまでここに座ってる」

ベッドに腰かけて、優しく私を寝かせてくれる春田くんにただただ申し訳なくなる。


「う…ごめん…」


「いや、俺こそ…ーーーごめん。」

春田くんがそう言うと、ホラッとミネラルウォーターのペットボトルを手渡してくれた。


私は起き上がる気力もなく、それを寝ながら飲もうとして少し口から溢してしまった。


「あぁ…()らしちゃった…ごめん」


私が謝ると、春田くんが苦しそうな表情をして目をそらす。

「いいよ、気にすんな」




「春田くん、私ね…ーーー泉のことずっと恋愛対象として見てなかったんだ」

なぜこんな話を始めたのか…自分でも分からなかった。


「泉って?例の彼氏?」


「そう。―――泉のこと、ただの後輩だと思ってた。あ、元彼の親友だったんだけどね」


「あぁ、ゆりのことあっさりフッたってやつ?」


「よく覚えてるね」

春田くんの記憶力に私は苦笑した。


「彼氏と一緒にいることが多かったから泉の顔を覚えたし、名前も覚えた。それに挨拶する程度の機会は何度かあった。でも…ーーー」


(そんな、最初は“ただの後輩”だった泉のことをーーーー私はいつのまにか好きになっていた…―――)


「偶然再会した後輩と付き合うことになるなんて…、なんか不思議な巡り合わせだよね…」



「………」

春田くんにこの話は届いてるのか、分からなかった。

私に、背を向けるようにベッドに腰掛けたままの春田くん。

その背中をボーッと見ながら、私は泉のことを考えていた。


「…――――明日早いんだろ?今日はもう寝たら?」

振り返った春田くんが、私の乱れた髪をそっと直しながら言う。


「…でもそしたら春田くんが…」


「俺は酔いがさめないと寝られないタチだから大丈夫」


それが本当ならまだ気が楽になる。でもきっと、春田くんは私に気を遣っているんだと、なんとなくそんな気がした。


「ごめんね…」


「謝るなよ…もう」

春田くんが苦笑しながら私のおでこをピンと指で軽く弾く。


「痛いよ、春田くん…―――」


暫くすると心地好い睡魔に襲われて、私は意識を手放した。


(ごめん…ありがとう…ーーー)


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