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彼は私の×××   作者: 夢呂
【第三章】遠距離/近距離の恋
30/88

残業

「夏海さん、これも明日まで処理をお願いね」

バサッと、江崎さんが笑顔で書類の束を置いた。

「はい」

私はパソコンと睨みっこしながらそれを受け取った。



「わー、書類の山じゃん…なんか手伝おうか?」

定時間近に渡された書類に、陽子が横から声をかけてくれる。


「ううん、大丈夫。」

(残業してた方が、気も紛れるし…ーーーー)


陽子の有り難い気遣いを私は笑顔で断った。




私の彼氏、吹成泉は、やはり昨日帰っていった。

机の上に「待っています」の書き置きと、地元行きの新幹線チケットを置いて―――…。


(会いに行くから、今週末…ーーーー)


だから泉の居ない寂しい部屋に帰っても、電話したらいつも出てくれる泉の声と、あと何日と指折り数える幸せで、なんとかやっていた。






夜の9時を過ぎた頃には、広いフロアーに私一人になっていた。

(ちょっと…怖い…ーーーー)


カタカタとパソコンのキーボードに触れる音がフロアーに虚しく響く。


「あれ?ゆり…ーーー」


突然声がして、私は驚いて反射的に声のした方を向く。


そこには…――――元彼の新城努(あらきつとむ)が立っていた。



「こんな時間まで残業か?珍しいな…」

このフロアーの二階上に、努の所属部署である営業部がある。なのになぜ彼はここにいるんだろう…ーーー。


「ゆり、大丈夫か?」

青ざめていた私に、彼が優しく声を掛ける。


(やめて…ーーー優しくしないでよーーーー…)


付き合っていたときの、優しい努のことを思い出すのが怖くて、私は黙ってうつ向く。


「なぁ…ーー噂ってマジなの?」


いつの間にか私の目の前に立っていた彼が、

私の好きなメーカーの微糖の缶コーヒーをコトリと置きながら言う。


「噂…」


(それは…泉のこと、だよね…ーーー)

私は、黙って頷いた。

(なんで罪悪感を感じるんだろう、私は何も悪いことしてないのに…ーーー。)


「そ、か…」

努はボソッと言うと、私のデスクから離れていこうと背を向けた。


「あ、努…」

私は、努が置いた缶コーヒーを手に取り、振り向いた努に言った。

「ありがとう、これ」


「おう」

努は少しだけ微笑んで、行ってしまった。


(なんだろう…ーーー嬉しい…ーーーー)

缶コーヒーは冷たかったのに、何だか胸が熱くなった。



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