大丈夫(ゆり目線)
「聞いたわよー、例の後輩とキスしてたんだって?」
私が給湯室へ向かうところを、陽子の弾んだ声が追いかけてきた。
「ちょっ…っ!」
(そうだった…私…――――なんてことしたんだろ…!!)
私は赤くなった頬を両手で覆う。
(…朝から社員の人に見られている気がしたのは、気のせいじゃなかったのか…ーーー!)
今さら取り消したくても、過ぎたことはどうしようもない。
それより…ーーー私は今日こそ吹成…いや泉が帰ってしまう気がしてそれどころじゃなかった。
朝から泉に襲われた?せいで時間が無くなり、慌ただしく家を出てきたためにゆっくり別れを惜しむことも出来なかった。
(今頃、きっと地元行きの電車…だよね?)
「ゆり、大丈夫?」
つい悲しい表情を見せてしまった私は、陽子の声に笑顔を作る。
「―――ん。大丈夫。」
(会いたいけど…ーーー私は泉となら大丈夫)
泉がどれだけ自分を想ってくれていたのか、昨晩さんざん伝えて貰ったから…―――。
距離なんて関係ないんだ。そこに気持ちさえ、あれば。
(それを教えてくれたのは…泉。貴方だった…ーーー。)
今度はこっちから会いに行こう。
地元に久しぶりに行くのも、良いかもしれない。
私は給湯室からデスクに戻ると、カレンダーを眺めた。
(来月には、行けそう。――――喜んでくれるかな、泉…。)




