二人の名前(吹成泉目線)
僕の胸に顔をすり寄せて眠る先輩に、僕はまた欲情していた。
(これ以上は、先輩の身体に負担がかかる…ーーー)
何度抱いても沸き起こるこの欲情は、どうしたら収まるのだろう。
そんな僕の気持ちを知るはずもない先輩は、スヤスヤと可愛らしい寝息をたてている。
(明日こそは帰らなくては…――――)
僕は断腸の思いで、そう決意した。
「おはよう」
「おはようございます、先輩。早いですね」
翌朝僕がベッドから起き上がると、いつもは起こしても起きない先輩が、珍しく自分で起きた。
「吹成が…ベッドから居なくなるから」
先輩がボソッと小さな声で言う。
「もう、帰っちゃうのかなって…ーーー」
(あぁ…そんな可愛いこと言わないで先輩…ーーーー)
僕は先輩を抱き締めた。力一杯、気持ちが伝わるように。
「先輩、」
「何?」
僕の胸に顔を埋めたままの先輩に、僕は言う。
「ゆりさんって、呼んでも良いですか?」
僕の申し出に、泣きそうになっていた先輩がクスッと笑う。
「いいよ。私も…泉って呼ぼうかな?」
ドキッとした。
さんざん抱いておいて今更おかしいかもしれないけれど、名前を呼ばれたのが初めてで、僕は驚いた。
自分の名前がこんなに甘く、心に響くことを初めて知ったから。
「え、ちょっと…吹成っ」
首筋にキスをすると、ゆりさんが焦って逃げようとする。
「どうして?名前、呼んでください…」
(何度でも聞きたい…聞いていたい…貴女の声で…ーーー)
「い、ずみっ…――あっ、」
――――結局その日の朝、遅刻寸前になってしまったゆりさんは、いつも通り慌ただしく支度をして出ていきました。




