告白
「…―――笑えないんだけど?」
先輩は困った時わざと悪ぶった態度をとることを僕は知っている。
「冗談ではないので、笑わなくて大丈夫です」
だからこの反応は、先輩が困惑しているんだと言わなくてもすぐ分かった。
駅前通りで、ムードもなく突然告白してしまったのは、誤算だった。
――――…でも…今更、退くつもりもなかった。
「好きにって…それ、恋愛的な意味で?」
「はい」
僕は真っ直ぐに彼女を見つめる。
「なんで?彼女にフラれたから?私はそんな軽い女だと思ってる?」
(彼女…ーーー?あぁ、そんな人も居たな…)
元カノの存在をすっかり忘れていた僕は一瞬先輩の言った意味が分からなかった。
「いえ、そういうわけではなくて…」「迷惑だから」
説明しようとした僕の言葉を、先輩はピシャリと遮った。
「―――私、もう恋愛はしたくないから。」
先輩が弱々しくポソリと呟く。
(やっぱりこないだ映画館で見たのは…失恋の涙だったんだ――――。)
つらそうにする先輩に、僕は声をかけようと近付く。
「…―――夏海先ぱ」
「そういうことなら、泊めてあげられないから」
そう言うと夏海先輩は、一人で改札へと足早に向かおうとした。
「待って!!」
僕は自分でも驚くほど力強く、先輩の腕を掴んだ。
(嫌だ…ーーーまだ、始まってもいないのに…)
このままお別れなんて、したくなかった。
「先輩は、僕のこと嫌いなんですか?」
僕の瞳に先輩が映る。僕の事をつらそうに見つめる表情。
「…―――」
先輩は、なにも言わずに僕から目を逸らした。
(嫌いではない…でも、好きでもない…ーーーそういうことですか?)
先輩の表情がそれを物語っていた。
「僕は好きです。先輩が…ーーー太一と付き合ってた時から…」
「え?」
さすがに想定外だったのか、先輩がフリーズした。
(当然か…。他の男と付き合ってた時から好きだったなんて…しかも親友の…ーーー)
でも、嘘はついていない。
だから僕は、すべてを先輩にぶつけた。
「今はまだ、好きでなくて良いんです。でも、一度僕にもチャンスを与えてくださいませんか?」
「ーーー吹成…」
先輩は戸惑いながら、僕の掴んでいた手を離そうとした。
僕はそんな先輩の手をそっと…もう片方の手で握る。
(お願いですから逃げないでください…。ーーー僕は太一とは…違います)
そして困惑している先輩に、今できる精一杯の笑顔で、一言付け加えた。
「…太一が告白した時のように。」
(絶対に、貴女を大切にするから…ーーーー)




